第98話
文字数 670文字
そう、それは真夜中のことだった
レミくんは、絵本の中でロングコートのチワワのチャチャを抱いてミルクを飲もうか、飲まないでいるか悩んでいる
ふと外に誰か来た気配を感じ、窓を開けベランダに出てみると、不意に何か薬品のような臭いが漂ってきて
その人が音もなく椿の木の横に佇んでいた
ぼくは、怖くて能力を解放しレミくんを呼んだ
レミくんは、いつも通りチャチャを片腕に抱いて現前すると、どうかしたの?的に首を傾げてみせた
ぼくは頷いて、あれ、あの人と椿の横に立つ髪の長い人を指差した
お母さんにはいつも、人を指差してはいけませんと言われていたけれど、その人の醸し出している不気味さは、もしかしたなら人類ではないかもしれないところから発生しているのかもしれず、どっちつかずだからまあいいか的な指差しなのだった
あーなるほど
そうレミくんの思念が聞こえた
あまり関心がなさげなチャチャは、いつもみたいに目を細めて笑っている
一陣の風が吹いた
国破れて山河あり、そんなフレーズがふと脳裏をよぎった
すると
髪の長い人が何かつぶやいた
はい?
よく聞こえない
近づいてみるのも憚られ、耳を澄ますと
ツイッターがなんちゃらとか言っているようだ
はい? ツイッターがどうしたんですか? おうむ返しにぼくはそう聞いた
ツイッターがね、ツイッターがね
はい。ツイッターが?
ツイッターがXになったの
そう言って彼だか彼女は、スゥーッと滲むように消えてしまった
いったいなんだったんだろうね
ぼくはレミくんにそう思念を送った
彼はさあねという、外人さんがよくやるジェスチャーをした
チャチャは、やっぱり目を細めて笑っていた