第69話

文字数 430文字

甘い匂いがした
ユリアの首すじあたりから
香ってくるのかもしれなかった

それを確かめるすべのないまま
もうわかれ道のところまで来てしまった

毎日一緒に帰ってはいるけれど
いまだにキスしたことはない

たまらなく好きだった
もうユリアの事しか見えない
そんな自分が怖いくらいだった

世界が薔薇色に輝いて見える

でも 怖かった
逆の感情を持ったとき
それは果てしなく
不幸せなことにちがいなかった

好きも嫌いもひとつのものの
表と裏だと思っている

大キライは大スキの
裏返しだろうし
大好きはほんとうに
大嫌いになる
可能性も秘めている

どうでもいいというのは
ほんとうにどうでもいいのだ

それは
絶対に自分には
あてはまらない

砂時計の砂のように
細やかな愛情を生涯
ユリアに注いでみせる

そう思っていた
だから

ユリアの気持ちが
冷めてしまうのが
いちばん怖かった

しかし
砂時計はいつかは
回転させなければならない
らしい

回転させた砂時計からは
愛は瞬く間に
こぼれ落ちていく

落ちていく砂を
とめるすべはもう
ない

正体不明の怖さは
これだと知った




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