7-12.柔らかい唇
文字数 2,909文字
美奈ちゃんはみんなを見回して言った。
「はい! そしたら式場へ行くよ!」
いよいよ挙式という事だが、俺は江の島へ行った時のままの、アウトドアスタイルだ。
「あれ? 俺の支度は?」
俺が聞くと、
「あ、忘れてたわ……」
ナチュラルに忘れていたらしい。新郎ぞんざいに扱われ過ぎだ……。
美奈ちゃんはキョロキョロと周りを見回し、手を挙げて言った。
「マゼンタ! よろしく!」
すると執事服を着た初老の紳士が、スルスルと近づいてきて、
「かしこまりました」
と、うやうやしく胸に手を当てた。
何と、マゼンタは美奈ちゃんの執事だったのか。金星人 なら、シアンを圧倒する技術力なのも当たり前だ。
マゼンタは俺を見ると、
「おめでとうございます。手紙から感じられた由香さんとの愛は成就したようですな」
と、にこやかに笑った。
「その節はお世話になりました。鈍感は罪でしたが、無事結ばれました。ありがとうございます」
俺がそう言うと、マゼンタはニッコリとうなずき、目を瞑って何かを唱えた。
BOM !
軽い爆発音とともに、地球から来たメンバーの服がそれぞれ変更された。
俺は白いタキシード、みんなは黒のスーツに白いネクタイ、サラはシックな青いドレスでシアンは子供ドレス。
そつのない選択だ。さすが執事。
「じゃぁ行くわよ~!」
美奈ちゃんはみんなに声をかける。
「あれ? これで終わり?」
俺が美奈ちゃんに聞くと、
「なによ? なんか不満なの?」
「髪型とかメイクとかあるんじゃないのかなって……」
「新郎は何でもいいの!」
そう言って先頭切って歩き出した。
酷い……。俺は少しうなだれた。
◇
見回すと、小高い丘の上に小さな白いチャペルが見える。
俺は由香ちゃんの手を引いて、チャペルを目指す。
真っ青な青空にいくつか浮かぶ白い雲、時折爽やかな風が黄金の花畑を渡っていく。
風に乗ってベルガモットやマンダリン系の甘い香りが俺達を包む。
遠くから小鳥のさえずりが聞こえてくる。
あー、これが人生最高の時間なんだな。
俺は由香ちゃんを見てにっこり笑い、由香ちゃんは幸せそうに照れる。
「生まれてきてよかった!」
自然と言葉が口に出てくる。
「私も!」
俺たちは見つめ合って笑う。
「あのチャペルは金星人 が昔、使っていたもの、100万年前の遺跡よ!」
美奈ちゃんは、俺達を先導しながら説明してくれる。
「100万年前!? なんだかとんでもない遺跡だね!」
「ここで結婚式を挙げたカップルは、皆最後まで添い遂げてるのよ。もし、別れる事になんてなったら、100万年の歴史に泥を塗る、重大事件になるから覚悟しなさいよ!」
「え? 重大事件?」
「そうよ、海王星 に衛星 落としてやるんだから!」
クリスが青い顔して言う
「陛下、それだけはご勘弁を!」
海王星 が崩壊したら当然一万個全ての地球も全滅だ。シャレになってない。
「大丈夫だよな、由香ちゃん!」
ちょっと冷や汗流しながら、由香ちゃんを見る。
「当たり前じゃない!」
ちょっと膨れている。
「ふふ、誠さんと先輩なら大丈夫か」
美奈ちゃんはそう言って笑う。
チャペルの中に入ると、中から外は透明に見えるようになっていた。
外からは真っ白な壁が中からはガラスの様に透明なのだ。
金色の花畑の中に浮かんでるかのような式場、二人の門出には最高の演出だ。
金星では、100万年前からこんな素敵な遺跡が建っていたのか。
◇
さて、いよいよ挙式である。
壇上で俺が待っていると、可愛いドレス姿のシアンが、バスケットに入れた花びらを振り撒きながらバージンロードをよちよち歩いてくる。
「お花ですよ~、お花で~す!」
あー、シアンは女の子だったよなぁと、今さらながら感慨深く思う。
その後ろを、クリスと共に由香ちゃんが付いてくる。
由香ちゃんは、ちょっと緊張した面持ちで、ゆっくりと一歩一歩
儀仗隊の皆さん、会社の仲間、そしてサラと黄金のドレスの美奈ちゃんに温かく見守られながら一歩一歩……
そして最前列まで来て、俺と目が合った。
俺は微笑んでゆっくりと頷 いた。
由香ちゃんはちょっと照れながら、壇上に登る。
壇上に俺と由香ちゃんが並んで立ち、クリスが間に立って開式を宣言した。
「誠さん。あなたは由香さんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
俺は由香ちゃんをじっと見つめ、
「誓います!」
「由香さん。あなたは誠さんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
由香ちゃんも俺をじっと見つめ、
「誓います……」
そこにシアンが恭しく、指輪を載せたトレーを持ってやってくる。
シアン大活躍だな。
指輪までいつの間に用意したんだ?
きっと執事だな、執事凄いな。
俺達は、お互いの薬指に指輪をはめあった。
そして、俺は両手でゆっくりと、由香ちゃんのヴェールを上げた。
由香ちゃんは、可愛いクリっとしたブラウンの瞳で、真っすぐ俺を見つめている。
愛おしさが、俺の心一杯に満ち溢れた。
そして、ゆっくりと由香ちゃんに近づいていくと、由香ちゃんは目を閉じた。
唇をそっと重ねる――――
俺は、その温かく柔らかい唇に魅了され、地に足がつかない、ふわふわとした感覚に捕らわれた。そして、この上ない幸せに包まれていくのを感じていた。
「congratulations!!!(おめでとう)」「congrats!!!(おめでとう)」「congratulations!!!(おめでとう)」
「らぶらぶ~ きゃははは!」
「誠さーん、おめでとう!」
みんなから声が上がる。
そして、クリスが結婚の成立を宣言した。
ジャーン♪ ジャージャ♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪
後方で儀仗隊の皆さんが、ブラスバンドでお祝いの曲を奏でてくれている。
これからは二人で一つなのだ。嬉しい事は二人分、悲しい事は半分、俺は今、人間として完成した事を、由香ちゃんに、そして参列してくれたみんなに、心から感謝をした。
生演奏とみんなの拍手の中、俺は由香ちゃんと見つめあい、これから始まる二人の人生に思いをはせた。
神様と、神様の神様に祝福された贅沢な結婚式で、俺達は正式に夫婦となった。
ついさっき告白したばかりなのに、とは思うが後悔などない。
「地球に帰ったら、もう一度挙げないとね」
「ふふ、二回もできるなんて得した気分、でもこんな素敵な場所での挙式は地球じゃ無理だわ。ここは最高!」
由香ちゃんは感動で涙目である。
俺たちは見つめ合い、もう一度キスをした。
「はい! そしたら式場へ行くよ!」
いよいよ挙式という事だが、俺は江の島へ行った時のままの、アウトドアスタイルだ。
「あれ? 俺の支度は?」
俺が聞くと、
「あ、忘れてたわ……」
ナチュラルに忘れていたらしい。新郎ぞんざいに扱われ過ぎだ……。
美奈ちゃんはキョロキョロと周りを見回し、手を挙げて言った。
「マゼンタ! よろしく!」
すると執事服を着た初老の紳士が、スルスルと近づいてきて、
「かしこまりました」
と、うやうやしく胸に手を当てた。
何と、マゼンタは美奈ちゃんの執事だったのか。
マゼンタは俺を見ると、
「おめでとうございます。手紙から感じられた由香さんとの愛は成就したようですな」
と、にこやかに笑った。
「その節はお世話になりました。鈍感は罪でしたが、無事結ばれました。ありがとうございます」
俺がそう言うと、マゼンタはニッコリとうなずき、目を瞑って何かを唱えた。
軽い爆発音とともに、地球から来たメンバーの服がそれぞれ変更された。
俺は白いタキシード、みんなは黒のスーツに白いネクタイ、サラはシックな青いドレスでシアンは子供ドレス。
そつのない選択だ。さすが執事。
「じゃぁ行くわよ~!」
美奈ちゃんはみんなに声をかける。
「あれ? これで終わり?」
俺が美奈ちゃんに聞くと、
「なによ? なんか不満なの?」
「髪型とかメイクとかあるんじゃないのかなって……」
「新郎は何でもいいの!」
そう言って先頭切って歩き出した。
酷い……。俺は少しうなだれた。
◇
見回すと、小高い丘の上に小さな白いチャペルが見える。
俺は由香ちゃんの手を引いて、チャペルを目指す。
真っ青な青空にいくつか浮かぶ白い雲、時折爽やかな風が黄金の花畑を渡っていく。
風に乗ってベルガモットやマンダリン系の甘い香りが俺達を包む。
遠くから小鳥のさえずりが聞こえてくる。
あー、これが人生最高の時間なんだな。
俺は由香ちゃんを見てにっこり笑い、由香ちゃんは幸せそうに照れる。
「生まれてきてよかった!」
自然と言葉が口に出てくる。
「私も!」
俺たちは見つめ合って笑う。
「あのチャペルは
美奈ちゃんは、俺達を先導しながら説明してくれる。
「100万年前!? なんだかとんでもない遺跡だね!」
「ここで結婚式を挙げたカップルは、皆最後まで添い遂げてるのよ。もし、別れる事になんてなったら、100万年の歴史に泥を塗る、重大事件になるから覚悟しなさいよ!」
「え? 重大事件?」
「そうよ、
クリスが青い顔して言う
「陛下、それだけはご勘弁を!」
「大丈夫だよな、由香ちゃん!」
ちょっと冷や汗流しながら、由香ちゃんを見る。
「当たり前じゃない!」
ちょっと膨れている。
「ふふ、誠さんと先輩なら大丈夫か」
美奈ちゃんはそう言って笑う。
チャペルの中に入ると、中から外は透明に見えるようになっていた。
外からは真っ白な壁が中からはガラスの様に透明なのだ。
金色の花畑の中に浮かんでるかのような式場、二人の門出には最高の演出だ。
金星では、100万年前からこんな素敵な遺跡が建っていたのか。
◇
さて、いよいよ挙式である。
壇上で俺が待っていると、可愛いドレス姿のシアンが、バスケットに入れた花びらを振り撒きながらバージンロードをよちよち歩いてくる。
「お花ですよ~、お花で~す!」
あー、シアンは女の子だったよなぁと、今さらながら感慨深く思う。
その後ろを、クリスと共に由香ちゃんが付いてくる。
由香ちゃんは、ちょっと緊張した面持ちで、ゆっくりと一歩一歩
儀仗隊の皆さん、会社の仲間、そしてサラと黄金のドレスの美奈ちゃんに温かく見守られながら一歩一歩……
そして最前列まで来て、俺と目が合った。
俺は微笑んでゆっくりと
由香ちゃんはちょっと照れながら、壇上に登る。
壇上に俺と由香ちゃんが並んで立ち、クリスが間に立って開式を宣言した。
「誠さん。あなたは由香さんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
俺は由香ちゃんをじっと見つめ、
「誓います!」
「由香さん。あなたは誠さんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
由香ちゃんも俺をじっと見つめ、
「誓います……」
そこにシアンが恭しく、指輪を載せたトレーを持ってやってくる。
シアン大活躍だな。
指輪までいつの間に用意したんだ?
きっと執事だな、執事凄いな。
俺達は、お互いの薬指に指輪をはめあった。
そして、俺は両手でゆっくりと、由香ちゃんのヴェールを上げた。
由香ちゃんは、可愛いクリっとしたブラウンの瞳で、真っすぐ俺を見つめている。
愛おしさが、俺の心一杯に満ち溢れた。
そして、ゆっくりと由香ちゃんに近づいていくと、由香ちゃんは目を閉じた。
唇をそっと重ねる――――
俺は、その温かく柔らかい唇に魅了され、地に足がつかない、ふわふわとした感覚に捕らわれた。そして、この上ない幸せに包まれていくのを感じていた。
「congratulations!!!(おめでとう)」「congrats!!!(おめでとう)」「congratulations!!!(おめでとう)」
「らぶらぶ~ きゃははは!」
「誠さーん、おめでとう!」
みんなから声が上がる。
そして、クリスが結婚の成立を宣言した。
ジャーン♪ ジャージャ♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪
後方で儀仗隊の皆さんが、ブラスバンドでお祝いの曲を奏でてくれている。
これからは二人で一つなのだ。嬉しい事は二人分、悲しい事は半分、俺は今、人間として完成した事を、由香ちゃんに、そして参列してくれたみんなに、心から感謝をした。
生演奏とみんなの拍手の中、俺は由香ちゃんと見つめあい、これから始まる二人の人生に思いをはせた。
神様と、神様の神様に祝福された贅沢な結婚式で、俺達は正式に夫婦となった。
ついさっき告白したばかりなのに、とは思うが後悔などない。
「地球に帰ったら、もう一度挙げないとね」
「ふふ、二回もできるなんて得した気分、でもこんな素敵な場所での挙式は地球じゃ無理だわ。ここは最高!」
由香ちゃんは感動で涙目である。
俺たちは見つめ合い、もう一度キスをした。