第53悔 V for Vaginatta (Vは『皇女股』のV)

文字数 2,151文字

 《 イサベラ・パルメル・リゴッド皇国第一皇女――メル(のみや)イサベラ。

 彼女は、二十一歳にして『Princess』にも(かか)わらず『Queen』と呼ばれていた――。

 透き通るような肌の白さのため、特別豊かに実った胸元の血管は常に浮き出ているかのように見えていた。
 豪奢(ごうしゃ)な金髪は軽くウェーブしながら、いかにも女性らしいラインを保持した腰のくびれにまで達し、そこには見事な張りを誇る極上の皇尻(おしり)が存在感を放っていた。
 そこから下に真っすぐ伸びる脚は、最高の角度を保って地面に着地し、その長さもまれに見るものだった。
 父ジョアン大皇とパスリン出身の絶世の美少女ショコンヌ・シャープナー第二皇妃との間に生まれた彼女は、母によく似た――いやそれ以上の美少女――つまり、皇国一の容姿端麗(ようしたんれい)さを持って成年に達していた。

 しかし、その顔と体よりも彼女を有名にしたのは『Vagina Queen』の異名が指し示すとおり、そのあまりにも美しすぎる女性器だった。 

 イサベラは物心つく前から自身の性器が特別美しいことに気づいており、宮中の誰彼構わず“御開帳(ごかいちょう)”して無邪気に見せていた。
 
 通りすがりの宮中関係者に対しては、上半身を前屈し開脚した股の間から女性器を見せ、同時に両手で陰唇(かげのくちびる)を開閉させる事で「ごきげんいかが?」の挨拶とした。

 家族である父や母、兄に対しても例えば晩餐(ばんさん)時にテーブルの上に寝転がってから開脚し、「今宵(こよい)はアワビの白ワイン蒸しでございます」などと冗談を言いながら、自慢の性器を披露した。
 その際、天井に向かって開かれた脚は『V』の字になっており、それは『Vagina』の『V』を示唆していた。 

 皇后も兄も母もその他の側室たちも宮中の教育係も、誰も彼もがこのイサベラの奇行(サービス)には頭を抱えっぱなしだったが、ただ一人、大皇のジョアンだけはイサベラの味方について擁護したものだった。

 「なぁに、子供の内は誰だってこんなものさ! 俺だって、ガキの頃はよく開チンしてたが、軍に入る頃には大人しくなってたもんだ。イサベラも大人になれば皇国史上最高の皇女になるぞ! こんな美人、見たことないもんな!」

 ところが成年に達する十八歳の年になっても、変わらず自慢の性器を見せつけていたので、宮中関係者は驚いた。

 「う~む。これは、もしかしたら……心の病かもしれんな。早いうちに医者に見せておくべきだったか……」 
 ジョアン大皇もそう嘆いたが、時すでに遅すぎた。

 そして、人々はいつしかそれを『皇女股(オメコ)』と名付け、神聖視(しんせいし)するようになっていた。

 そういった意味では、『Vagina Queen(女器皇后)』より『Princess of Vagina(女性器の皇女)』という呼び名の方が適切だったのかも知れないが、その性器がまるで骨灰磁器(こっかいじき)の『ボーン・クレイグ』で出来ているかのように美しく繊細で一本の毛も生えておらず、常に下着をつけないようにしていたためか股間に()れたところがなく、神の御業(みわざ)――『神器(じんぎ)』とも言えるものだったため、「女性器界の女皇と呼んでしかるべきだろう」という理由で『Vagina Queen』となった。

 こうして、皇民は彼女の『皇女股(オメコ)』に夢を見たのだった。 》 
 
 ~メルモモ・カベルスキー著 『V for Vaginatta (Vは『皇女股』のV)』より抜粋~



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 少しでも至近距離で現場(げんじょう)を確認しないことには、捜査もままならなかった。

 「近づけば近づくほど丸見えだぜ!」
 『女器刑事(ジョキデカ)』は、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま堂々と歩き出し、玉座の方に近づいた。
 彼の髪はより濃い赤毛となり、瞳も一段と赤く光っていた。  
 

   



    




 ところが、興奮状態のフェルディナンドによって歌われたこの下手な『ジャージャマニア』――四天愚王時代のクローネ王国で流行した定型詩で、当時の宮廷道化師『ジャージャマニア・ローリンソン』が大元を形作った――が良くなかった。
 イサベラ皇女を警戒させてしまったのだ。

 見れば、短躯(たんく)ながらガッシリとした見かけない男が、エンリケとトスカネリの脇を抜け、目を異様に光らせて玉座に近づいてくるではないか。
 身の危険を感じた皇女は開いた『皇女股(オメコ)』から両手を放し、ドレスを下げてしまった。

 これには観客席の最前列から激しい野次が女器刑事に対して飛んだ。
 「おま、馬鹿野郎! 黙って見てろ!」、「大体、誰なんだお前は!」、「いや、ホントにあんた誰だ? いつからそこにいた!」、「無職が!」……などなど。

 無理やり皇女のドレスを(まく)るわけにもいかないフェルディナンドは、仕方なく肩を落としながら左に九十度急転回して、さも「最初から用を足すつもりで移動したんですよ?」といった表情で特別誂(とくべつあつら)えのゲートを守るインペリアルガードに会釈してから、場内を後にした。
 髪の毛も瞳の色もすっかり元に戻っていた。

 あの男、一体何をするつもりだったんだ?
 後悔卿(こうかいきょう)(いぶか)しんだが、その男を招集した張本人のエンリケ後悔皇子は「ボボンさん……」と寂しそうな視線を彼の背中に送っていた。



 第53悔 『V for Vaginatta (Vは『皇女股』のV)』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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