第97悔 賢者たちの時間

文字数 2,124文字


 それは、罪悪感だったのか、それとも満足感だったのか……。

 ファニチャードの中で同時に果てた男どもは、ひとしきりその快楽を堪能した。図らずも“オアシス”に突入してしまった二人に関しては、もう一回戦、と再び腰を振り始めたりもした。

 この状況には、さすがの観客たちも声を失ってただただ彼らの次の行動を待つばかりであった。

 しかし、しばらくして我に返った『凌辱山(りょうじょくやま)事故』の主犯どもには、大変なことをしてしまった、という自覚があったのだろう。スピナッチですら、こんな少女を犯してしまったことなど今までなかったのだ。近衛騎士なら尚更だった。

 彼らは、何事もなかったかのように挿入したそれぞれの一物を抜きながら、いそいそとズボンを履き直した。

 スピナッチは“事故”が起こる前から全裸だったため、今さらどうしようもない、と逆に居直った。
 実は僕、原始人なんです、というぐらいの居直り方で宮廷詩人宣言前に脱ぎ捨てた道化衣装のところまで堂々と歩き始めた。

 どの男も『凌辱山』のすぐ横に墜落した女股彗星(メコット)のイヴァノフには目もくれず本来の職務に戻った。

 
 《 少女に対する性犯罪を起こしてしまった、という彼らの中の罪悪感か? はたまた、ファニチャードの全ての穴によってもたらされた快楽と満足感がイヴァノフに対するうしろめたさとなり、よそよそしくなったのか?

 スピナッチに関しては、その後、いくつもの愛の詩をイヴァノフに贈り続けているので、意外にも罪悪感の方が強かったのでは、と推察される。

 一方、四人の騎士らは後に「近衛騎士団の職務は激務である」ことを理由に、もう一人副長ポストを増やすように、と宮廷と元老院に求める嘆願書を提出した。

 そして、推挙された新しい副長がファニチャード・デルガドであった。

 「わずか十一歳の少女を近衛騎士団副長に?」という意見が大勢を占めたが、四騎士の中でもクリム・バッツとガジュマル・サントーメの「彼女はエンリケ皇子の信頼を勝ち得ておりますゆえ、皇族側、騎士団側一挙両得の策かと……」という特に強い説得が功を奏して、遂に彼女の十二歳の誕生日に近衛騎士団副長に就任することが発表された。

 上記の騎士は『凌辱山(りょうじょくやま)事故』において、ファニチャードの“オアシス”に直接挿入した二人であった。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『放言“皇”論のファニチャード妃』より抜粋~


 一方、事故の被害者ファニチャードは、通路に倒れたまま下半身を震わせていた。彼女にとっては思惑通りの大満足の“事故”だった。

 いえ、予想以上に上手くイきましたの! やっぱり、大人のモノは全然違いますのね!
 普段は年上とはいえ、まだまだ十代中盤の学友たちの肉棒を相手にしているファニチャードに対して、鍛え抜かれた男たちのソレは段違いの魅力と快楽をもたらした。

 特に“オアシス”に突入した二人組が、短時間に追撃の溶岩を余すことなく放出していったことは、ファニチャードの自尊心をも満たした。
 もう、お腹いっぱい! わたしのお女股って、そんなに名器なのかしら? ……だったら、コレを使ってエンリケさまをもっとイジメられるかも!

 さらに気付けば、彼女の小麦色に日焼けした幼気(いたいけ)な胸の谷間には、ヒューゴの放った大量の白い溶岩が流れていた。
 「まぁ、綺麗! まるで天の川ですの! わたしのカラダは芸術にもなりますのね!」 

 そんな彼女を通路に倒したまま放置していった男どもにも、彼女は理解を示した。

 彼らにとっても、コレを続けたいのなら知らぬ存ぜぬの何も無かったフリをするのが最上の策でしょう。わたしも、もっともっと続けたい! だから、ここは何事もなかったかのように円卓に戻ることにしますの!

 彼女は上半身を起こすと、胸の谷間に流れる“天の川”を手でかき集め、証拠隠滅のために全てをその場で飲み干した。

 『第一悔 皇国後悔会議』終了のあともしばらくの間、もしかして訴追されるのでは? と危惧していた性犯罪者の男どもにとっては、彼女は現代の女股神(めこがみ)に思えたことだったろう。“オアシス”の名実ともに。


 《 もちろん、彼女――男どもに見捨てられたかのように見えた副長イヴァノフ――の名誉の為に言っておくと、特別、ファニチャードの“オアシス”が名器な訳ではなかった。

 現に、この会議のあとも名器中の名器、“常世の国”は近衛騎士団員――特に『凌辱山事故』に関わっていた四騎士に愛され続けた。
 彼らは、愛する副長と新しいもう一人の副長とで盛んにGang-bang(リゴッド熱流)に熱中した。

 ただ、この“事故”現場においては、少女がまだまだ全然十代前半だという「背徳感」と、射精後の『賢者の時間』と呼ばれる興奮抑制状態が相俟(あいま)って、イヴァノフが見向きもされないという「一瞬の悲劇」が訪れただけだったのだ。

 つまり、結局――男どもは、いつでも簡単に果てさせてくれる都合のいい女股を求めていたにすぎないのだ。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『放言“皇”論のファニチャード妃』より抜粋~


 そして――その、墜落した女股彗星イヴァノフには、ひとつの奇跡が待ち受けていた……。



 第97悔 『賢者たちの時間』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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