第46悔 ハンドリング・ガール&テクノ・ブレイク・キッド

文字数 2,087文字

 
 「このバックル、とっても大きいですの! 十三センチくらいあるのかしら?」
 
 思わぬ形で褒められたエンリケの“記念碑”が〈ドクンッ〉と脈打つとファニチャードがまさに子供のように(ハシャ)いだ。

 「きゃきゃーの! どういう仕掛けですの? このベルト!」
 そう言いながら、“筒状のバックル”を上下に降って確認する。
 「何かのレバーみたいですのね!」

 「い、いや、ね、ファニ! ファニチャ! アッード! それはベルトじゃなくて――」と言いかけたところでエンリケは思い直した。
 ――空前絶後の好機到来ではないか! このまま前進だ!


 機転の利かせ方に磨きをかけ続けるエンリケが少女に注文する。
 「よ、よし! ファニチャード! ボクの掛け声と共にその“バックル”を前後にスライドさせて力を与えてくれまいか? シゴけば――いや、スライドさせればさせるほど、硬くなってボクの力が出る仕組みなんだ!」

 「了解ですの! こうかしら?」と、エンリケの合図も無しに勝手に“バックル”をスライドさせてみせる無邪気な十一歳。

 「ファンティーゴ!!」と絶叫する後悔皇子。
 
 「ど、どうしたんでさ? 皇子」と、さすがの宮廷道化師スピナッチも急に咆哮(ほうこう)した君主を心配した。
 マントとコートが隠れ(みの)となって少女のハンドジョブが誰に気づかれることもないという事実が、心置きなく皇子の“記念碑”を硬化させた。

 「いや、なに、大丈夫だ! もう我慢できない! もう一度押すぞ!」とエンリケが焦った様子で目の前の道化師に声を掛ける。

 「準備はいいかい? ファニチャード! せーのっ――」
 エンリケが力いっぱいガザザナの左肩を押す……フリをする。飽くまで意識は自分の股間にあった。
 「はいですの!」とファニチャードがエンリケの“筒状のバックル”をスライドさせる。
 手首を非常に上手く使った効率の良い前後運動だ。
 
 「い、いいぞ! ファニ! そのっ――あっ! 調ッ子! だあッ! アッ」と(もだ)える皇子。

 大観衆もこの必死な皇国第二皇子に声援を送らずにいられなかった。
 「皇子ーッ!」、「エンリケ様、頑張ってー!」、「今だ、行けーッ!」
 
 後ろに控えるトスカネリも助言する。
 「まだまだ! 我慢、我慢ですぞ! 耐えれば耐えるほど力を解放できます、皇子!」

 スピナッチも皇子の奮闘に感化され、全力でギッザゾズ・ガザザナが座る椅子を引いた。
 
 会場全体の熱気が少女にも伝わったのか、ファニチャードがさらに左手をエンリケの腰の後ろから回し“バック”ルに()えて支援する。
 上下から包み込むように握られ、激しく前後運動させられた“ファニチャード記念碑”は、もう限界だった。

 両目を(つむ)り「い、行く! 行くよ、ファニチャード!」とエンリケが宣言すると〈ギガガーッ〉と超巨人の座る椅子が大きく動き、同時に“記念碑”は大爆発した。

 「セント・ファンティーゴ!」
 “最高だ!”という意味も持つリゴッド語を叫びながらエンリケが膝から崩れ落ちる。

 〈ドドドワーッ!〉
 観客席からこの日一番の大歓声があがった!
 「さすが、皇子だ! 巨岩が動いた!」
 「エーンリケッ! エーンリケッ!」

 体勢を整えようとするも、膝が笑ってどうにもならないエンリケだったが、な、何ということだ! 信じられん! め、目眩(めまい)がするほど……ハ、ハチャメチャに気持ちが良好だ! と、至って心中は晴れ晴れとしていた。

 確かにキュロットの中は多少、汚れたかもしれん。……だが、それがどうした!
 エンリケは堂々と自身の行為を肯定した。

 ところが、ここで後悔卿(こうかいきょう)トスカネリですらも予測しなかったことが起きた。

 何者かがキュロットの(すそ)から中に手を突っ込んで、直に“記念碑”を握りしめたのだ。
 「ふぁにっ?!」
 他でもない。ファニチャードだった。 
 そして、彼女がまたエンリケの“バックル”の前後運動を始めたのだ。

 「ファッ?! ファニッ! チャあード? どうした――ぁんだい? も、もうもう、もうダ、バックルを放して! 大丈夫ダッ――よォ!」と成す術なく全身を震わせるエンリケ。

 そんなエンリケの耳元に顔を寄せた少女が驚くべきことを(ささや)いた!

 「エンリケ様、さっきのお返しですの!」 

 「ファーッ!?」
 されるがままに“記念碑”を(しご)かれるエンリケは「も、もう! もう! 行ってる! 行ってるって――ばァーッ!!」と(わめ)いた瞬間、一回目から三分と間を置かず、二度目の爆発痕(ばくはつこん)を少女の手のひらに残し、昇天した。 
 

 《 いつの時代も「幼気(いたいけ)な少女は、生娘(きむすめ)だ」と男どもは思い込む。勝手なものだ。夏の日の野や山を駆け巡って小麦色になる少女もいるにはいるだろう。
 しかし、ファニチャード・デルガドは高級リゾート地のプライベートビーチで、年上の学友たちに囲まれて夏を過ごすのだ。
 “筒状のバックル”が、本当は何であるかを知らないはずがなかった。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『放言“皇”論のファニチャード妃』より抜粋~



 第46悔 『ハンドリング・ガール&テクノ・ブレイク・キッド』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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