第16悔 皇国後悔会議、開幕!

文字数 2,178文字

 地球暦1121年5月30日――

 いよいよ初めての『後悔会議』が始まった。


 円形協議場の議場中央には楕円型に机が並べられていた。その円の上座に司会席が設けられ、さらにその後方、三段ほど高くなったところに玉座があった。

 大観衆が固唾(かたず)()んで見守る中、後悔三銃士ロニーの涙ながらの角笛の音色と共に後悔研究所所長トスカネリが登場すると、早くも観衆のボルテージは爆発寸前まで高まった。

 トスカネリが声援を制し右手を上げると、さらに甲高い角笛が鳴り響き、インペリアルガードの二人と共にエンリケ後悔皇子が登場した。

 「うつけ」と陰口をたたかれていた皇子が、『大後悔宣言』以降、急速に威厳(いげん)を取り戻していた。
 五万人の大観衆は地響きの地団駄(じだんだ)で歓迎した。

 玉座の前まで来るとエンリケは派手なマントを(ひるがえ)し、こう開会を宣言した。

 「(とも)あり遠方(えんぽう)より(きた)る! 同じ志を持つ者同士が集い、語らう。なんと素晴らしい日か! 今日という良き日に相応しい勇士を皇国中から集めた! さっそく紹介させていただこう!」

 そう言って後悔三銃士のキャスに目配せをすると、彼女はその長い腕を振りかざし観客の視線を誘導しながら会議に出席する勇士を一人ずつ呼び込み始めた。

 この会議のために特別に(あつら)えたゲートからまず出てきたのは――

 「皇国の食糧事情に革命を起こし、一代で財を成した時代の風雲児ハロルド・デルガドの孫娘! 食品加工会社『ゴールデン・ソイレント』代表、皇国一の大富豪! ファニチャード・デルガド!!」

 そのアナウンスと共に小麦色に日焼けした美しい令嬢が、お付きの者を従えて堂々と入場した。
 大観衆は驚きの声を挙げた。創業者であるハロルドが亡くなり、その(あと)を孫娘が継いだとは大抵の者が聞き知っていたが、それがどう見てもまだ十歳を越えたばかりの少女だったからだ。

 一体、こんな幼気(いたいけ)な少女にどんな“後悔”ができるというのか?

 まさにこの点が、エンリケが勇士・後悔士たちを呼び知見(ちけん)を得たいところだった。
 女にして子供。彼女に“後悔”ができるのか?


 続いて出てきたのがまさに「逆に大物」だったため明るい歓声が起こった。

 「身長二メートル五十九センチ!! 世界に誇る皇国の超巨人!! ギッザゾズ・ガザザナ!!」
 サーカスやイベント事に出演し誰もが一度は目にする存在となっていたが、実際には「木こり」が本職で、稀代(きだい)の大酒豪としても有名だった。

 のっしのっしと一人で歩いてきて、彼には小さすぎる椅子に腰かけても、座高は人の身長を優に超えていた。


 「今や皇国を代表するファッション・リーダー! 新進気鋭のデザイナー、クリストフ・コンバス!!」
 服飾以外にも乗り物や家具など多岐(たき)にわたってデザインを手掛けるクリストフは今や時代の寵児(ちょうじ)
 若い女性を中心にひと際大きい声援を受けていた。若者代表として納得の後悔会議入りだった。
 観客席には妻アンナマリアとクリストフの弟バルトロイも応援に来ていた。
 「あ、兄貴すげえや!」


 続いて出てきたのがこれまた皇国を代表する女傑(じょけつ)

 「“救国の英雄”エリクソン・シンバルディの愛弟子! 元・皇国陸軍特殊部隊『ダムストリア』隊長、現・皇国近衛騎士団副長グンダレンコ・イヴァノフ!」

 強烈な威圧感を放ちながら、軍人らしくキビキビとした動作でエンリケに両手で敬礼してから着席すると、観客は大拍手で彼女を称えた。


 しかし、それまでの大歓声がウソのように、次に出てきた男に会場が水を打ったように静まり返った。
 「一般招待枠! 知る人ぞ知るフリーランス、フェルディナンド・ボボン!!」

 「誰?」、「有名な人?」、「誰だっけ?」、「フリーランスって……?」「無職のこと?」
 観衆のひそひそ声がフェルディナンドの心に刃となって突き刺さる。
 燃え盛る炎のようなボサボサの頭を()き、恐縮しながら席に着いた。
 それを、友人クリストフがうなずいて迎えた。


 トスカネリがエンリケに耳打ちする。
 「皇子、だから言ったではないですか。あれでは、あの若者が気の毒です」
 エンリケはしかし、主張した。
 「先生、今に見ていてください。彼があの伝説的な男だとわかりますから」


 そして、最後にキャスが今悔(こんかい)の司会者を呼び込んだ。

 「もちろん、会議の進行はこの男! 皇国を代表する名司会者! スピナシア・オレラシア! 宮廷道化師――ザ~! スピナッチッ!!」

 緑色の長髪を高い位置のツインテールで決めたお調子者が自作の歌を歌いながら入ってきた。
 大観衆は一気にヒートアップした。
 宮廷道化師のザ・スピナッチはまさにうってつけの人選だった。エンリケ皇子とトスカネリを前にして物怖じしない者など皇国中を探しても限られていたからだ。

 司会者席に着く前に玉座のエンリケ皇子とハイタッチをしようとしたスピナッチは、インペリアルガードによって(さまた)げられ大観衆の笑いものとなった。

 場の空気が和んだことを確認して着席するとスピナッチは、さっそくお決まりの挨拶で大観衆と出席者のご機嫌を(うかが)った。

 「ヘ~イ! どしたの?」

 こうして後に、開催者、出席者、観客のすべてが「行かなきゃ良かった……」と後悔することになる記念すべき『第一悔 皇国後悔会議』の幕が切って落とされた。



 第16悔 『皇国後悔会議、開幕!』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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