第44悔 リゴッド悲喜劇の予兆
文字数 1,689文字
一向に進まない“後悔”議論。
観客たちは
「おれたちは、今、何を見せられているのか?」
それすら判然としない時間がすでに十分近く流れていた。
何か……高い切符代を払ってまで観に来て損したな……、という後悔の念が、円形協議場内に
この空気を敏感に感じ取ったのは、トスカネリから少し離れた位置にいた後悔三銃士のリーダー、タイタスだった。
さすがは元小劇団の主宰という事もあり、観客の反応をすぐに理解できた。
いや、しかしな! だからと言って今の俺に何ができるか? って話だな。実際、目の前で何が起きているのか俺にも全く分からないんだから。
と、考えたリーダーの頭の中を、妻やシルレールが
いや! 何が出来るかじゃなくて、何かをして観客が帰ってしまうのを防がねばならないんだ! じゃなきゃ……この会議が失敗しちまったら……グィネスやシルレールの命が……トスカネリの腹いせに……。
タイタスが必死に思考を
俺も露出するか?! いや、俺が出したところで“超巨人”と道化師の前では焼石に何とかだ。じゃあ……リゴッド悲喜劇を急に演じ始める――のも駄目だ。俺たちはトスカネリに極秘で『後悔三銃士』の依頼をされたのだから。大衆に出自を探られるような事は危険だ。ならば……。
その時、仲間たちの事を思い出した。
キャスは? あいつは今、何をしているんだっけ? まだ机の下に隠れているのか? ロニーは……ん? あいつは何を真剣な顔をして円卓の下を見てるんだ? キャスの身に何かあったのか? ここからでは状況が良くわからん! そうだ! こうなったら議場の中心に躍り出て急に後悔三銃士の『後悔ポーズ』を派手に決めれば! 大観衆も「フゥー!」という声援を送ってくれるかもしれない!
意を決して床を蹴るタイタス!
それを、背中を向けたままのトスカネリが左腕を真横に〈サッ!〉とあげて制した。
「えっ!!」と三銃士のリーダー。
会場の空気を察知する能力なら、トスカネリも負けてはいなかった。
いや、それどころか彼のは異能力だった。
もし、この期に及んで『後悔ポーズ』が飛び出していたら、席を立つ観客が続出したことだろう。
「さぁ、皇子。そろそろ……」と進言する元家庭教師。
そうなのだ、この状況でエンリケに行動を
気をもんだタイタスが毒づいた。
「おっ、そうでした! すみません、先生」
すっかり満足したのか、皇国第二皇子はファニチャードの果実から手を放すと、代わりにみぞおちのあたりにあった本物のラズベリーを摘まみ、タンクトップから腕を引き抜いた。
「取るのに時間が掛かってしまって申し訳ない、ファニチャード。さあ、お食べ」とエンリケは少女に謝罪しながら、彼女の口に優しくラズベリーを放り込んだ。
すっかり気持ちが良くなってしまったのか、はたまた恐怖からか?
彼女は下半身をガクガクと震わせながら、もぐもぐと口を動かし返事した。
「いいえ……とても……美味しゅうございました」
「うむ!」と満面の笑みのエンリケ後悔皇子は、ギッザゾズ・ガザザナの正面に向き直すと「さ、スピナッチもソレを格納して準備をしておくれ」と指示した。
「コイツはウッカリいけねえやぁ!」と一物をズボンの中にしまうと彼は、改めてガザザナの椅子の後ろに付いた。
エンリケもガザザナの巨体を前から押そうと超巨人の左肩に再び手を置いた。
「よし! それではもう一度、押すぞ! せーのっ!」とエンリケが声を掛けると、今度はガザザナの椅子が動いた。
「いいぞ、スピナッチ。もう一息だ!」
禁断の果実を
しかし、この時のエンリケはまだ知る由もなかった。
この後すぐ、
第44悔 『リゴッド悲喜劇の予兆』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆