第88悔 届け、遭難信号!

文字数 2,761文字


 イヴァノフの開帳された女股(めこ)は、奥底まで漆黒の闇が広がっているようにクリストフには見えた。
 それは、例えるなら星々のない宇宙(そら)のような――光でさえ抜け出すことの出来ない無限の重力を感じさせた。
 
 しかし、だ。あの中に……もし、あの中にスピナッチが言うように『常世の国』があるのなら、イヴァノフの“城門”は重力の塊でありながら……同時に異世界への門、あるいは天国への扉とも言えるだろう。……ならば名付けなくてはならないだろう、『極楽門(ごくらくもん)』と!

 刻一刻と理性を消失しつつある妄夢(モゥム)が床に両膝を突く。
 すると、クリストフの意に反して“妄夢”が〈グンッ〉と伸びた。それによって“頭”の先も床を突いた。

 やはり、イサベラ様の『皇女股光(おめこう)』の影響か? 全く好みではないイヴァノフの“城門”でも、過去最大級に“妄夢”が背伸びする! ……でも、これが極楽門だとわかった今! イサベラ様の御威光によって、僕の“妄夢”は遥かなる宇宙(そら)彼方(かなた)――常世の国を目指して旅立つ一つの巨大な船となった! 言うなれば……宇宙船『妄夢号』だ!

 クリストフがその宇宙船を手に取ると、それは〈ジンジン〉と脈打ち今にも出発しそうな勢いだった。

 旅起(たびダ)ちの時は近い! 僕は、このまま女股の重力に引かれて妄夢号を『極楽門』に突入させてしまうのか? 出来ればそんな事はこの大観衆の面前でなんかしたくない! でも、宇宙船は僕の意志とは無関係に、ただ運行時間を厳守するのみ! 誰か……誰か妄夢号の発射を止めてくれ!

 この逡巡する妄夢を見て、変態のわりに気を遣っているのか、と考えたイヴァノフが助け船『淫靡な申し出(インディセント・プロポーザル)』号を出した。

 「何をしている? 私は約束を守る女だ。例えそれが私の了解なしで契約されたものだとしてもな。遠慮はいらない。さぁ、早くその素晴ら――いや、その、私にはそれが何だかよく分からないが、その肉の棒みたいなモノをココに差し込め。きっと、落ち着くだろう」

 そう言ってから更に女股穴(めこあな)を両手で開くと、“妄夢”が間髪を入れず反応し上下に勢いよく頷いた。

 股間の大層立派な一物を脈動させる妄夢を見て、すぐそばにいる新米宮廷詩人が大声で独り言ちた。 
 「ッ畜生(デェム)! 良いなぁ!」
 イヴァノフに挿入できることを羨ましがっているのか、はたまた“妄夢”の偉大さへの讃辞か、どちらともつかないスピナッチの独り言に辺りの観客も同意した。
 「うん、確かにいいなぁ!」、「惚れ惚れするほど形もいいものなぁ!」

 それを聞いた近衛騎士のふたりが通路にへたり込む詩人の背後に回り、彼の肩を押さえ付けた。
 「よもや、どさくさに紛れて先生より早く()れるつもりじゃあるまいね?」とサントーメ。
 確かにスピナッチの“道化”も既に回復の兆しを見せ、硬化し始めていた。

 「詩人殿。あんたのも随分立派だが、残念ながらウチの副長はもうウチの先生のモノしか目に入らねえ。今日のところは我慢してくんなせえ!」とヒューゴがいなせなルームシティ育ちの『ルーミック』ぶりを示しながらスピナッチの肩を叩いた。

 「ちぇ! 何だい何だい! お前たちだって、本当はイヴァノフの女股を横取りしたいんだろ?」と、スピナッチが手足をジタバタさせると、インペリアル・ガードの矛先(クリム)後楯(カスティリョ)が、スピナッチが暴れださないよう万一に備えて、通路に投げ出されている彼の両脚にそれぞれが跨り、腰を下ろして押さえ付けた。

 「馬鹿を言え、スピナッチ殿」とクリム。
 「我らの想いは、変態先生の肉剣と共にある。肉剣が副長のお女股を深く刺す時――我らもまた、副長の中にいるのだ」

 これにカスティリョが付け加えた。
 「(しか)り。つまり先生が副長の中で果てる時――我々は晴れて副長の子宮の住人に成れるのだ。そして、先生の肉剣は長い! おそらく今までにないほど、我々は副長の奥底まで辿り着けるだろう!」

 「なんて奴らだ! 悔しくねえのか?!」
 スピナッチの煽りがインペリアル・ガードの胸をえぐる。

 当初の――彼らの直属の上司エンリケから与えられた命令では、インペリアル・ガード組は「露出狂の不届きモノを捕らえて“後悔”させること」が目的だった。
 それが、どうだろう? 今やその露出狂の跳梁跋扈(ちょうりょうバッコ)ンを後押しする応援団と化していた。

 一体、何をやっているのだ? 俺は! エンリケ皇子の命令にも背き、そして、最愛のイヴァノフ副長の女股を他人棒に取られようとしている!
 不甲斐なさがクリムの心中を支配する。

 隣でスピナッチの左脚を押さえるカスティリも想いは同じだったようで、涙目でイヴァノフの深淵を食い入るように見つめていた。


 そのイヴァノフの女股は、今まさに絶頂の寸前にあった。

 “妄夢”を迎え入れる期待から噴き出した彼女流の『プッシー・スプラッシュ・マウンテン(PSM)』により、黒い穴は濃霧に包まれていた。
 そして、その中心点、重力の結集地に向かって宇宙船『妄夢号』はジリジリと引き寄せられていた。
 クリストフが自分自身の理性と良心に向けて――あるいは、良識ある近衛騎士以外の誰かに向けて、“船内”から最後のメッセージを送る。

 ダメ……だ。この…巨大な重力から…逃れ……られない。阻止…限界点を……突破し…た……。意識も……遠のいて……きた…。『常世』に…出るか……重力に…潰される……か…。イチかバ…チか……だ…。誰か……・・

 いよいよ『妄夢号』は、船首がイヴァノフの女股の陰核を(かす)める距離にまで到達していた。
 女股の…核だ……。この…先の……通信…は…不…可……能…・。さら……ば…・・

 ――そう言ってクリストフが現世(うつしよ)に別れの挨拶を告げた時だった。

 三階席通路東側で繰り広げられているこの挿入劇を阻止する声が、クリストフの耳に届いた。

 「罪深き棒の持ち主よな! “マグアインブルグの幻”」

 聞き覚えのある声! まさか――!
 寝起きに冷水を顔面に掛けられるがごとく一息に正気を取り戻したクリストフは、完全に阻止限界点を越えたと思われた『妄夢号』の航行を止めると、声のした方向に首を振った。
 
 そこ――四階席東側通路の欄干の上には、全身白を基調としたコスチュームを身に纏った何者かが立っていた。
 「この世に魔羅(マーラ)がある限り、ヴァギーナイフがすべて()る――」

 「な、なんだって? 何者だ!?」と近衛騎士ヒューゴが問うと、おそらく女性と思われる声の持ち主が白いマントを(ひるがえ)し自己紹介をした。

 「吾輩の名は『魔羅取締官(マーラ・ハンター)』、“無毛猫(ウー・マオ・マオ)”! (また)の名を――プッシー・ハイジーン!」

 開かれたマントの裏には無数の陰茎が括りつけられ、恥丘には一切の毛が無く――また世にも美しい桃色のお女股が、挿入劇の登場人物を見下ろしていた……。



 第88悔 『届け、遭難信号!』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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