第96悔 新世界ですの!

文字数 2,028文字


 反り起つ“四騎士山”に、メコットが落ちる直前――。

 ブリッジする矛先クリムのすぐ目の前には、少女がいた。
 それは、三階席通路で奮闘するイヴァノフを応援しに来たファニチャード・デルガドであった。

 彼女は、イヴァノフに何かあった時のために円卓の席の上に放置されていた『黒鉄のコルセット(レプリカ)』を両手に抱え、さらにスピナッチが宮廷詩人になることを宣言する前に階下に投げ捨てた頭の上からかける偏光色眼鏡を装着していた。

 このため、非常に危うい覚束(おぼつか)ない足取りでもって、フラフラと“四騎士山”に近づいてきている途中だった。

 「あ、あぶない! スピナッチ殿、前方注意!」
 そう叫んだのはやはりブリッジの状態からファニチャードの姿を確認できた近衛騎士サントーメだった。

 「なぬっ?! あっ! そのサングラスは!」と新米宮廷詩人が叫んだ。

 ファニチャードのしているスピナッチの偏光色眼鏡(サングラス)は特別な仕様で、黒色系のものはより濃く、白色系のものはより白く見えるため――おそらく今のファニチャードには、目の前に反り起つ四本の肉棒や全裸のスピナッチは、「ぼやけた白い光を放つ何か」ぐらいにしか認識出来ていないと思われた。
 逆にブリッジで頭を逆さにしている騎士らの黒髪を、通路の上に生える雑草のように感じたことだろう。

 そして、メコットは“山”に落下した。


 《 このため――悲劇が起きた。

 事もあろうにファニチャードは、“四騎士山”と落ちてくる女股彗星(メコット)の間に挟まれてしまったのだ。
 それは、そこにいた関係者の誰もが予想できない事態だったに違いない。

 刹那の逡巡(しゅんじゅん)の内に行動を起こしたのは、位置の関係上、ファニチャードの姿を確認できた矛先(フロント・ガード)クリム・バッツと近衛騎士ガジュマル・サントーメ、そしてダ・スピナッチだった。

 つまり、彼らはイヴァノフの女股よりも、メコットの下敷きになる可能性があった少女の人命を優先したのだろう。
 その選択は、大人として尊敬できるものだったのかも知れない。

 しかし、結果としては――現場に形として残ったモノとしては――「人として、やってはいけないことを揃いも揃ってしてしまった」ことになった。

 イヴァノフの着陸寸前にスピナッチが両手を四本の肉棒から放すと、クリムとサントーメがファニチャードをメコットの衝突から救うためブリッジを解き、覆いかぶさるように彼女を抱きかかえようとした。

 ところが猪突猛進型としか言いようのない性格のスピナッチが四騎士の位置関係を(かえり)みず、我先に、と得意の『スピナチア』を利用した勢いでもって突進したため、ファニチャードの姿を確認出来ていなかった残る二人のツー・ミン・カスティリョとヴァーバリ・ヒューゴのブリッジに(つまづ)いた。
 
 これによって、カスティリョとヒューゴの体がファニチャードの方に向かって押される形になり、さらにスピナッチがクリムとサントーメに強烈なタックルを背後から浴びせることとなった。

 その結果――偶然か必然か――クリムとサントーメの一組となった“山”が通路に押し倒されたファニチャードの幼気(いたいけ)な“オアシス”を、スピナッチの“道化”が彼女の“強気な抵抗組織”を貫いた。

 『黒鉄のコルセット(レプリカ)』は遥か後方に転がり、世にも奇妙で淫らな〈スボズブシャア〉という挿入音が場内に轟いた。

 さらに、カスティリョの“理論の剣”が少女の口を塞ぎ、ヒューゴの“いなせなルーミック”が彼女のいかにも子供らしいタンクトップの脇下から“真白の丘”の方に向かって突き刺さり、“禁断の果実”をも刺激した。

 次の瞬間、スピナッチの背中の上にメコットが落ちると、それを合図にするかのように四騎士とスピナッチがそれぞれ盛大に少女の中に果てた。

 イヴァノフは、巨漢の元一流剣闘士の強靭な背筋のバネにより衝撃を吸収されつつ跳ね上がり、一人の少女に五人の大人が覆いかぶさり射精するいわゆる『凌辱山(りょうじょくやま)』の現場となったその(かたわ)らで、相変わらず淫らな格闘を続ける全く謎の変態仮面男女二人組にぶつかりながら軟着陸した。 


 これは、確かに――のちにファニチャードを含めた彼ら全員が証言するように――「事故」だったのだろう。

 しかし、なぜ少女がこの日の為に(あつら)えたドレスの下に何も着けず、(うるお)った“オアシス”を露出した状態で、わざわざ偏光色眼鏡をして“四騎士山”に近づいて行ったのかは本人にしか分からない真相不明の部分である。

 筆者としては、この“事故”が起こった瞬間にファニチャードが発した言葉をここに(しる)しつつ、この章を締めくくりたい。 


 その瞬間――。

 彼女は口からカスティリョの精液を(ほとばし)らせ、偏光色眼鏡を放り投げながら高らかに叫んだ。 

 「Yeah(イェア)! It is the New World(これぞ、新世界ですの)!」 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『放言“皇”論のファニチャード妃』より抜粋~



 第96悔 『新世界ですの!』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み