第119悔 続々・吐露する堅物

文字数 1,843文字

 《 ――“永遠の()” 男根神(だんこんしん)オムドゥオラ。

 リゴッド神話に登場する原初の神エメノイクシュが、天地開闢(てんちかいびゃく)のあとに創造した最初の現人神(あらひとがみ)の内の一柱(ひとはしら)
 現生人類の原型にして完成形と称えられている。
 
 眉目秀麗(びもくしゅうれい)にして万夫不当(ばんぷふとう)の男神であり、彼を表すのにもっとも特徴的な男根は、その長さが自身の身の丈ほどもあり、なおかつ持続勃起症(じぞくぼっきしょう)のため昼夜関係なく四六時中、猛り続けていた。

 そのため、後世の人々から“永遠の()”などと呼ばれ、『男根の神』として生殖器崇拝(せいしょくきすうはい)の対象とされた。
 また、中世においてはカルト的な人気が高まり、『オムドゥオーラル』という名の彼の巨根をテーマにした詩集が出版された。これは、オムドゥオラ自身が己の一物について独白するという体で書かれており、その内容の9割が卑猥な表現で埋め尽くされているため、現在では発禁処分となっている。
 
 さて、なにゆえ『福禄亭』などが軒を連ねる花街の中心に『勃起したまま小便をするオムドゥオラ像』があるのかと言えば、それはまさにこの男根神が『オムドゥオーラル』の中で、その起源となる卑猥詩を詠んでいたからに他ならない。
 また、その詩こそがリゴッド古典詩の始まりであることも忘れてはならない。

 では、その古典詩を紹介してこの章を締め(くく)りたい。


   千里起(せんりた)つ 女股が欲する 我が巨根

   女股園(めこぞの)作る その女股床(めこどこ)

 
 ( 現代語訳:おお、我が巨根よ! 千里離れたところからでも見えるお前を目的に、今日も女股が列をなしているではないか! あの女股も良し、この女股も良し、選り取り見取りで今宵はどれにするか迷うわ。ならば、いっそのこと女股の花園を作ろうではないか、いつでも出来るように! ) 》

 ~アリストファルス著 『そうだ 花街、行こう』から抜粋~


 その巨根が――今まさにテンダ・ライのアヌスを高々と貫いていた。

 言い伝え通り、身長と同程度の長さで作られている銅像の男根部分は急角度で取り付けられており、亀頭付近に至るまでには、ほぼ垂直に上を向く反り具合だった。
 その亀頭の先が水の噴出口となっており、『ロンゾ&ファミーヴァ』のロンゾが噴水の水量調節のバルブを細かく開閉することにより、テンダ・ライの前立腺を心地よくさせていた。

 そして、NWV(エヌ・ダブリュ・ヴィー)の堅物メンバーの意志とは無関係に、彼の“堅物”は怒張と吐精を繰り返し続けていた。

 「なんなんだよ、コイツ! マジキモイんだけど! ヤっちゃってよ!」
 スプリンガー特有の雅な言葉遣いでテンダ・ライを誘惑し、“堅物”を露出させた張本人がGang-Girl(ギャル)の本性をあらわにして怒り心頭と言った様子でファミーヴァに訴えた。

 「慌てるんじゃねえ、俺もコイツには聞きたいことがあるんだ。その答え如何(いかん)によっちゃあ、タダじゃおかねえ」
 ファミーヴァが若いスプリンガーをそう諭すと、足もとで水量調節バルブをいじっているロンゾが笑いながら指摘した。
 「もうすでに穴目処(ケツメド)がタダ事じゃねえがな!」

 ファミーヴァもこれには同意せざるを得なかった。
 「ちげえねえ! ダハハハハハッ!」
 
 い、いったい……なにがあったんだ……この地獄は……。
 テンダ・ライが、必死に記憶を遡る。

 な、なぜ、あの女はあんなにも……顔を紅潮させて怒っているのか……? 私の一物を鮮やかに外に出してくれた……あの女は……。

 そこで、テンダ・ライは本人に聞いてみることにした。
 「お、おい、女……私に……気があるんじゃなかったのか……?」

 答えは瞬時に返ってきた。
 「ハァッ?! マジ、バカじゃないの? このクソ童貞ェ! 明日の朝一番で首吊って死ね!」
 
 「ダハハッハアハハハハハハハッ!」と『ロンゾ&ファミーヴァ』も楽しくて仕方ない様子だ。

 「な、なぜ……裏切った……」と惑乱(わくらん)するテンダ・ライ。

 そんな彼に、中堅スプリンガーが助け舟を出した。
 「覚えてないのかい? アンタのバカ犬がアッサリ果てちまったんだよ! あの()がまだしゃべってる途中で!」

 ――えっ?! この私が……? 初めて他人の世話になった……? 確かに……背後から両手で握られていたのは何とはなく記憶しているが……この私が? 性的手奉仕(セクシャル・ハンドジョブ)で果てたというのか?!

 その驚きと興奮が童貞の“堅物”を再び屈起(くっき)させた。

 それを目ざとくロンゾが見つけ、水量調節バルブを繊細なタッチで開閉すれば、高く白い噴水が花街の夜空に舞いあがるのだった……。



 第119悔 『続々・吐露する堅物』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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