第108悔 プラス思考の権化

文字数 2,956文字

 前悔までの『ニュー・イェア!』は……。


 『第一悔 皇国後悔会議』に議論の熱が戻ってきた。
 ……と、思われた次の瞬間――、観客席西側の女性たちが嘔吐に塗れた。

 それは、皇女イサベラと“超巨人”ギッザゾズ・ガザザナによる『光精子散弾(こうせいしさんだん)』で妊娠した女性たちの『つわり』だった。

 混乱して逃げ惑う観客たちを察知したトスカネリは、エンリケ後悔皇子に会議閉幕の挨拶を促し、皇子もそれに応えた。

 「悔有り後方より来る! また悔しからずや!」

 跳ねるは“記念碑”、残るは粗チン……。



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 《 それは、もはや暴動と呼んで差し支えなかった。

 五万の大観衆がそれぞれに逃げ出したのだから、円形協議場を警備していた近衛騎士団の苦労は、如何(いか)ばかりか、と案じる読者の方もおられると思う。
 
 しかし、どういうわけか、大観衆が一息に押し寄せた時――通路や正面出入口にはひとりの近衛騎士もいなかった。
 元々はきちんと配置されていたはずなのだが、もう誰も警備をしていなかったのだ。
 後悔皇子エンリケを死守しなくてはならないはずのインペリアルガードすらどこかに消えていた。

 このため、この『ルーム後悔議』の内容に憤懣(ふんまん)やるかたない観客たちは、帰り際に思う存分、通路の壁や出入口扉に自由に当たり散らすことが出来た。殴りつけたり蹴ったりしながら観客が通ったせいで、建造間もない円形協議場内の至る所がボロボロに破壊された。

 ところが、本書を執筆するにあたり筆者が当事者に聞き取り取材をしてみて不思議に思ったのは、場外に飛び出した観客の多くが「その時、円形協議場の煉瓦造りの外壁も何ヵ所か壊されていた」と証言したことだった。
 そして、筆者が現地に確認しに行くと――今なお、人の手の届きそうにない高い階の外壁が破壊されたままなのだった。

 消えた近衛騎士団と壊された外壁……。

 協議場内の破廉恥沙汰(ハレンチざた)とはまた別に、場外でも何か騒動があったに違いないと睨んだ筆者は、急遽、リゴッド南島のマルダゴンに向かった――。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『ルーム後悔議:女股と一物の祭典』より抜粋~


 しかし、それはまた別の話……。


 五万人の観客が逃げ惑う中、身の危険を感じた後悔卿トスカネリは、警備をしているはずの近衛騎士やエンリケのインペリアル・ガードを呼びながら立ち上がった。
 「者ども、出合え! エンリケ様をお守りするのだ!」

 しかし、トスカネリは知らなかった。
 彼が円卓の下の“記念碑”の絶倫具合に驚いている間に、ヒューゴやクリムらは“先生”と共に医務室へと行ってしまったことを。
 「……反応がない。一体、何をしておるのか」
 杖をつく盲目の紳士は焦りを隠せなかった。

 議場内に取り残されたのは、円卓のエンリケとトスカネリ、ファニチャードとイヴァノフ、書記席のノギナギータとロニー、それに、円卓の下に隠れているキャスのみ。
 そして、今――寝ている間に自身棒が極大進化したため混乱して右往左往するギッザゾズ・ガザザナが、いよいよ巨大な拳を乱暴に振りまわしはじめた。彼が入場ゲートから円卓へと向かう動線の衝立(ついたて)を蹴りあげると、それは跳ねながら観客席に飛び込んだ。

 「くっ! このままでは……人死にが出る」
 当初から超巨人の隠された凶暴さを警戒していたトスカネリだったが、まさかここまで協議場内全体が混沌とした事態に陥るとは予測していなかった。
 「フフッ……今さら遅いか……」
 後悔卿は首を振りながら――エンリケの提案によるギッザゾズ・ガザザナの議場メンバー入りを許可してしまった事を後悔し――自嘲(じちょう)した。

 そのエンリケは、協議場内のひどい喧騒の中でひとり、何やら股間のあたりに冷やりとした感触を得ていた。
 ん……なんだろう……ずいぶんとこれは楽チンだが……? ……っなにっ! 我が“ファニチャード記念碑”が円卓の上に載っているではないか!

 幸いにも、“十三センチ砲”を露出していたことで、後悔皇子はようやく天国から現世に帰ってくることが出来た。もっとも、今やそれは“三センチ砲”とも呼べない代物だったが。

 慌ててマントを翻し円卓に背を向けたエンリケが、思考を巡らす。
 よもや今のヒヨコのような“記念碑”を誰も見てはおらぬだろうな?! ボクだって全力で勃起すれば、さっきの黒ずくめの――そのくせ肝心の一物はやけに白い変態仮面くらいの長さにはなるというんだ、本当は! ただ、時機が悪かった! うん! そこは真摯に認めよう。まぁ、愛しのファニチャードはボクの“記念碑”の真の姿を知ってくれているわけだし……いろいろあったのだから、今日のところは良しとするか。それに昔から『一寸先は魔羅』というではないか。円卓に誰かしらの一物が置かれていたとしても全く不思議ではないのだ、この世の中は。しかし! それとは別に、円卓の下になぜかキャスがいることだけはファニチャードには知られたくない! もちろん、キャスによって都合三度も“記念碑”が爆発してしまったことも……。

 エンリケが頭だけをわずかに右に振り、ちらりとファニチャードの方を見た。幼気(いたいけ)な少女は、暴れ始めた超巨人と暴徒と化しつつある観客たちの行動に恐れをなして、身をすくめている。
 そして、それは今にも円卓の下に避難しそうな体勢でもあった。

 彼らがいた円卓は休憩にはあまり適していませんでした。それでも休憩はできるので、5分間休憩してスープを作りましょう。

 まずい! あのまま円卓の下に身を隠されたのでは、破れたズボンから女股(めこ)を丸出しにしたキャスと鉢合(はちあ)わせてしまう! となれば、ファニチャードは自然とキャスの女股から流れ落ちていることだろう白い何かを見てしまうかもしれない。それだけは避けねばならない! この司会席との位置的な関係上、ボクが第一容疑者に浮上してしまう! ボクとファニーは、互いを初めての相手とする運命なのだから、ボクがキャスの女股でもって先に済ませてしまったことは絶対に知られてはならな――否、待てよ。……幼気なファニチャードには、女股から流れる白い何かの正体の事など分からぬかも知れぬな……。たまたま、ボクの“記念碑”をベルトのバックルと間違えて、大きくて太くて硬いから手に取って遊んだだけの十一歳のファニチャードに性交の意味など分かろうはずもない。そうだ、そうに決まっているのだ! ……このエンリケ……安心した!

 そう心の中で判決を下すエンリケ後悔皇子は、今にも自分に襲いかかろうという勢いで暴れるギッザゾズ・ガザザナと暴徒たちを目の前にして、大きく(うなず)いていた。

 
 《 この期に及んでもファニチャードの純潔を信じるエンリケ皇子は、『プラス思考の権化(ごんげ)』と言えた。もっとも、『大後悔時代』においては、彼特有のこの『前向きさ』が皇国民に対し進むべき道を指し示す“光”となった。
 姉であるイサベラの発する『皇女股光(おめこう)』と、弟エンリケの楽天的な性格から来る光――。この姉弟のふたつの“光”が、リゴッド皇国の未来を大きく左右したのは間違いなかった。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『放言“皇”論のファニチャード妃』より抜粋~



 第108悔 『プラス思考の権化』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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