第54悔 飛翔天女の女股の羽衣

文字数 2,429文字


 《 さて、当時、民衆の間で(にわ)かに騒がれた弟エンリケとの“怪しい”関係性だが、率直に言ってしまえば――近親相姦的なモノ――は無かった。

 前述したように、彼女は幼少のころから誰彼構わず『皇女股(オメコ)』を見せていたわけだが、五歳下の弟エンリケに対してもそれは同じで、むしろまだ赤子だった皇子には過度にそれを実行した。
 
 赤子用のベッドでスヤスヤと眠るエンリケの顔面に(またが)り、一日中、『皇女股(オメコ)』を見せつけたというのだ。
 そうしているうちに当然、エンリケ皇子は目を覚ますわけだが、それを好機と見たイサベラは、『皇女股(オメコ)』の口を例によって両手で開閉させ、あたかも昔話などの物語を話しているように見せかけ再び寝かしつけたと言うのだから芸が細かい。

 この逸話にイサベラとエンリケの真の関係性が示されている。
 
 つまり、親代わり、あるいは教育係のつもりでイサベラは異母弟エンリケに物語を聞かせてやっていたのだ。

 皇女は、時に『皇女股(オメコ)』を(さら)してしまうものの、幼いころから頭脳明晰(ずのうめいせき)にして聡明叡知(そうめいえいち)の神童として知られていた。

 九歳で皇立ルーム大学を飛び級で卒業してからは、更に熱心にエンリケを教育したものだった。
 このエンリケの教育熱心な初代家庭教師は、弟が難しい問題を解いたり、あるいは試験に合格したりすると“ご褒美”として『皇女股(オメコ)』を開いてみせた。
 まだまだ幼いエンリケには異母姉の行動は全く意味不明だったが、「なぜか懐かしい気持ちになったものだ」と後に回想している。

 ところが順調に、あまりにも美しく成長してしまったせいで、イサベラは十五歳の時にエンリケの家庭教師をクビになってしまった。

 ――元々、誰に言われるわけでもなく勝手に教育を施していただけだったが――十歳になったエンリケに姉の“御開帳(Open Vagina)”は刺激が強すぎて「教育上よろしくない」と言うジョアン大皇による判断からだった。
 代わりにトスカネリ・ドゥカートゥスが二代目家庭教師の任に就いた。
 
 そういった訳だから『第一悔 皇国後悔会議』の議事録に発言が残されていたようにエンリケ皇子の「姉上の『皇女股(オメコ)』は、ほとほと見飽きました! だから、どうかお仕舞ください!」という嘆きの言葉もある意味真実だったのである。

 ――筆者も当初はこの姉弟間の関係性を疑っていたため、本書を(したた)めるにあたってとある探偵に調査を依頼してみたが、やはり「“怪しい”ものは無かった。少なくとも“証拠”は全く出てこなかった」という報告があった。 》 

 ~メルモモ・カベルスキー著 『V for Vaginatta (Vは『皇女股』のV)』より抜粋~



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 「さぁ、弟よ! 我が偉大なる『皇女股(オメコ)』を見てすっかり思い出したであろう? 学術の大切さを!」
 イサベラの声で途方に暮れていたエンリケの脳が(ひら)めいた。

 「そ、それはもう! 懐かしゅうございました」
 エンリケが姉に頭を下げると、付き従うトスカネリやタイタスらも(こうべ)()れた。

 「容姿端麗(ようしたんれい)聡明叡知(そうめいえいち)、その上、陰唇美麗(いんしんびれい)と来ているのですから、人々が姉上を見る時――リゴッド神話に登場する創造の女神『イザネイミホート』を連想せずにはいられません」

 「ほほほ! 言いおるわ、エンリケ」と上機嫌の穴上(あなうえ)

 「いえいえ、本当の事でございます。現にこの隣にいるファニチャード嬢も先ほどの姉上の『皇女股(おめこ)』を見た時、『ああ、女股神様(めこがみさま)!』などと言って祈りを捧げていたのですよ」
 すると、ファニチャードは令嬢らしく膝を屈伸させ社交的な挨拶をイサベラにした。

 「なるほど、なるほど。其方(そなた)らの魂胆(こんたん)は理解したぞ。確かに、我が『皇女股(オメコ)』には女股神(めこがみ)イザネイミホート同様、【見た人々を勇気づけ、力を与える】という自分でも不思議としか言いようのない能力がある」

 すると、イサベラは再び〈スックッ〉と玉座のひじ掛けの上に立った。容姿端麗、聡明叡知だけではなく、彼女は運動神経も人並み外れていた。人々は、そんな姿に『神』を見るのだ。

 そして、大袈裟(おおげさ)に両腕を振って声を大にして叫んだ。
 「ここの五万はおろう大観衆の一人一人に『皇女股(オメコ)』を見せ、力づけよと言うのだな? 其方(そなた)らは!」

 「御意(ぎょい)!」と片膝を突いて頭を下げるエンリケとその未来の(きさき)
 エンリケとしては――とにかく姉上に自慢の『皇女股(オメコ)』を会場中に披露してもらい、観客の大歓声で上機嫌のままさっさと帰ってもらおう、という目論見(もくろみ)があった。
 会議に学者が居ないのは確かにボクのミスだ。姉上に付け入る隙を与えてしまった。しかし、とにかく今日のところは姉上に帰ってもらわないと、話が……会議が進まない!
  
 「見事な機転! 恐れ入りましたぞ、エンリケ様」と後ろからトスカネリが小声で皇子に感謝した。
 「先生、姉上が帰ったら我々も円卓に座り、学者の代わりとなり後悔会議を続行しましょう!」とエンリケがイサベラに頭を下げたまま返した。
 「さすがですぞ、皇子!」と後悔卿も感心した。

 イサベラはすっかりその気になり、絢爛豪華(けんらんごうか)なコートを脱いで、その下に着ていた神話上の天女が着ているような羽衣(はごろも)を露出させた。
 それはイサベラをよく知る者たちによって『女股(めこ)羽衣(はごろも)』と呼ばれていた。
 『皇女股(オメコ)』の不思議としか言えない力を利用した飛翔装置だからだ。
 それは両脚を大開きにし、『V』の字にすることで浮力が得られる仕掛けになっていた。

 「今日のところは我が飛翔力を持って客席中に『皇女股(オメコ)』の神通力(じんつうりき)を届けるが、『次悔(じかい)』のためにエンリケよ、巨大な鏡と天体観測用のレンズを組み合わせた装置を用意しておくのだぞ? どこの誰からも見えるようにな?」とエンリケに釘を刺した。

 「もちろんです! 姉上!」と調子を合わせる弟が満面の笑みで姉上に両手で敬礼した。
 
 イサベラは玉座を飛翔台として宙に舞い上がり『V』の字のまま、客席に向かっていった……。



 第54悔 『飛翔天女の女股の羽衣』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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