第85悔 刹那の射如何

文字数 1,163文字


 イヴァノフは力尽き倒れ、スピナッチは早くも次の“季節”を楽しむために自身棒を右手で愛で始めていた。

 すると、一部始終を見ていた四騎士がタイミングを見計らって神妙な顔つきで我恥無股王者(ガチンコ・チャンプ)に語りかけた。

 「おい、見てみろよ道化殿を。独りで果てて……顔面俄雨(がんめんにわかあめ)だ。こうなるとさすがに憐れなモノだな」
 矛先(フロント・ガード)のクリムがそう言うと、それに後楯(リア・ガード)のカスティリョが同調した。
 「全くだ。しかも、ニヤついてやがる。こんな冷たい通路の上で……夢でも見ているのか?」

 え? どういうこと? 悔しくないの?
 スピナッチが心中で独り言ちた。 
 あれ……? 何だか……体が、ダルい……な……。

 次に宮廷詩人の耳に飛び込んできたのは――アヌスからスピナッチの子種を漏洩させながら失神して倒れているはずの――“先生”を褒め讃えているヒューゴとサントーメの声だった。

 「見ましたよ、あの一瞬! 先生の一物が信じられないくらい長く感じました!」とサントーメ。

 「いやぁ、それにしても凄いですなぁ! お見事です、先生! で、あの技の名前は何ですかい?」とヒューゴ。

 これに、王者の『裏スピナチア』三連発に敗れたはずの妄夢が答えた。
 「左様、あの技こそは――この妄夢がマグアインブルグ門の下で編み出した……秘技――」
 
 えっ? なに? 変態が……あ……れ? うわっ、なんだこの僕の顔の生温かい……あっ! ぺっ! 苦いっ!

 スピナッチは心底、驚愕した。

 その時――目を覚ました彼からは、変態先生を四騎士が囲み勝利に沸く風景が……横に見えた。

 つまり、『我恥無股(ガチンコ)』に敗れ、床に倒れているのは自分だったのだ。

 彼は、倒れ際の刹那の間に『射如何試合(シャドウ・ゲーム)』に勝利した夢を見ていただけなのだ。
 そして、その夢の中でイヴァノフ相手にバックで……そう――クリムが言う通り――独りで果てたことにより射出された白濁液は、仰向けに倒れた己自身の顔面にかかってしまっていた。それは、俄雨(にわかあめ)と言うには余りにも膨大な量だった。
 その漏液を()め、その苦さに目を覚ますこととなったのだ。

 この僕が……『我恥無股』で……負けた? 『射如何試合』どおりに行かなかった……? えっ? どうして? どうやって? ……え?

 まだ酸素が完全に脳に行きわたらずに混乱しているスピナッチの頭では、冷静に試合を振り返ることは不可能だった。

 「残念だったな、スピナッチ」
 その声は、倒れているスピナッチの足元まで、お女股を隠しながら這ってきたイヴァノフのものだった。

 「僕の……“ポケット”……」と、うわ言のように呟く宮廷詩人を尻目に、イヴァノフが先ほどの『我恥無股』の一戦を解説し始めた。

 「勝負は一瞬だったのだ……。信じられないほど長いアレを、私は見た!」



 第85悔 『刹那(せつな)射如何(シャドウ)』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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