9日③

文字数 1,396文字

夕方、香織と食事の準備中、玄関から声がした。
「ヒーローくん、あっそびっましょー!」
「…ヨーシマーサくん、あーとーでねー」
と一応ノッた感じで返事をしながら玄関を見ると、大きな袋をもったヨシマサが仁王立ちしていた。
「花火しよー!」
「は?」
「花火!みんなでやろー!」
「俺、ご飯まだなんだけど」
「俺も!」
「は?」
「あれ~いらっしゃい、どしたん?」
「香織さん、夜ヒロと花火したいんだけど、ご飯食べてっていいっすか?」
「は!?」
「OK~じゃああがって手伝って」
「はーい!」
ヨシマサは元気よく返事をし、さっさと中に入る。
唖然としたまま、台所に向かう2人の背中を見送った。
「…島の距離感、こわ」
思わず口に出ていた。

結局おかずを増やして3人分用意することになったが、ヨシマサは結構手際が良くて、そこは素直に関心した。

「20時に浜辺集合だから」
遠慮なくー本当に遠慮なくー夕食を頬張りながらヨシマサが言う。
「集合って他に誰が来んの?」
「リエと、コーキと、あと宿が落ち着いたらイノリも来るって」
「てゆーか、そういうことはもうちょい前もってさ」
「?何も用事とかないでしょ?」
「ないけども」
「誰か大人がいなくて大丈夫?」
香織が口を挟んだ。
「はい、すぐんとこにイノリん家があるし、大丈夫っす」
「そっか、わかった。しかしすっかり仲いいね君たち。明日の祭も一緒に行くの?」
「一応、その予定だよ。あ、香織ちゃん、一緒に行きたかった?」
「はは、お気遣いどーも。みんなで楽しんでおいで」

夜、浜辺に行くと、リエとコウキが来ていた。コウキは相変わらず颯爽としているが、リエはまるで借りてきた猫みたいだ。
「早かったかな」
とリエにこっそり聞くと
「余計なこと考えんな」
と肘打ちされた。
「こんばんは~間に合ったかな」
イノリが息をはずませながら合流した。
「それじゃ、前夜祭始めまーす!」
ヨシマサが高らかに宣言した。

最初はそれぞれが好きに手持ち花火で遊んだ。
何色にも変わるもの、火花が大きいもの、長く燃え続けるもの…多種多様な花火たちだ。
ぐるぐる動かしたり、両手で持ったり…様々な光があちこちで瞬く。花火の輝きが増す程に気分が上がっていった。
その内、ヨシマサとイノリできゃあきゃあ言いながら吹き出すタイプの点火を始めた。
その様子を眺めていたが、ふとリエがいないことに気がついた。辺りを見回すと、少し離れた所にある流木にもたれかかっている。
「大丈夫?」
近づいて声をかけると
「…あぁ、うん、大丈夫。ちょっと貧血体質なんだよね」
「え、そうだったの?」
「ヒロがいた頃は違ったけど。低血圧で時々ふらつくだけだから」
「あんま無理せず、な?」
「…ん。でも来たかったから」
「まだまだ花火あるみたいだから、ゆっくりでいいと思うよ」
「…ありがと」
素直なリエの反応が照れくさい。
なので、持ってきたカメラで花火を撮りながら会話することにした。
「じゃあ朝とか辛いんじゃない?うちの母親もわりと低血圧で、早起きとか苦手なんだけど」
「まぁ確かに朝が一番しんどい」
「やっぱなー。…あれ、でもこないだ朝市いたよな」
「…ん、まぁ」
「よく起きれたな…ん?あ」
「…何」
「もしかしてコウキ来るかもだったから?あのふぐぶくろ?の常連なんだろ」
「…」
(あ、やべ、図星っぽい)
「えーっと…」
「言ったら殺すから」
「…はい」
「ヒロー!リエー!こっちおいでよ~」
「今行く!」
イノリの呼び声に助けられた。

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