イノリ
文字数 809文字
彼女は夜明け前に目を覚ます。
家から波止場へ向かう道中、水平線が白み始めると、微 かな朝の気配を察知したモノたちが蠢 き始める。
彼女は軽やかにテトラポッドを伝 い海に入る。
海の中はまだ眠りに満ち満ちていて、その静寂を破らないよう慎重に侵入する。
翻弄する波に逆らわないよう注意を払いながら、殊更に眠りの深い場所を探す。
だんだん、足元の方から勘のいいモノたちの気配がし始める。彼女はそれらを上手く躱 しながら、
そして、じっと待つ。
太陽が昇り朝焼けが広がるにつれ、陽の当たるところから海がキラキラと輝いて、朝を迎えていくのがわかる。光を浴びて海の上も中もざわめき始める。
とうとう、太陽がちょうど半分になる瞬間が来る。
空にも海にも、全く同じ半分の太陽。
空と海で、合わせて1つの完全な太陽が輝く。
一瞬、すべてが停止する。
目覚め始めたモノたちも、まだ眠っているモノたちも、全てが沈黙する。
“この瞬間だけ、世界は私のもの”
“私だけが知っている、私のための時間”
─もっと正確に言えば、彼女が祈り己を捧げるための時間。
“私
彼女の髪先に滴る水粒 のひとつひとつに、反転した世界が宿り輝きを放つ。
オレンジ色に染まった瞳の中の太陽を瞼で閉じ込め、手を組み、彼女は頭を垂れる。
次の瞬間、世界はまた当たり前のように動き始める。
彼女を纏っていた無数の小さな世界が海へ還ってゆく。
太陽が昇りきり、夜が消えどこもかしこも朝になった。彼女は陸 に上がり、日常に戻る。9年以上、繰り返してきた日常に。
海を振り返り、彼女は思う。これからもこの朝が続くのだろう、と。
”私は私を生かしてくれたこの海と、この島で、生きていく“
“これが、私たちの約束の証”
毎日、この小さな決意とともに、1日が始まる。
さぁ、今日もまた、変わらぬ1日を過ごせますよう…
家から波止場へ向かう道中、水平線が白み始めると、
彼女は軽やかにテトラポッドを
海の中はまだ眠りに満ち満ちていて、その静寂を破らないよう慎重に侵入する。
翻弄する波に逆らわないよう注意を払いながら、殊更に眠りの深い場所を探す。
そこ
は、毎日少しずつ位置が変わるが必ずある。探している間に太陽が顔を出して、じわじわと昇り始める。だんだん、足元の方から勘のいいモノたちの気配がし始める。彼女はそれらを上手く
そこ
に行き着く。そして、じっと待つ。
太陽が昇り朝焼けが広がるにつれ、陽の当たるところから海がキラキラと輝いて、朝を迎えていくのがわかる。光を浴びて海の上も中もざわめき始める。
とうとう、太陽がちょうど半分になる瞬間が来る。
空にも海にも、全く同じ半分の太陽。
空と海で、合わせて1つの完全な太陽が輝く。
一瞬、すべてが停止する。
目覚め始めたモノたちも、まだ眠っているモノたちも、全てが沈黙する。
“この瞬間だけ、世界は私のもの”
“私だけが知っている、私のための時間”
─もっと正確に言えば、彼女が祈り己を捧げるための時間。
“私
たち
だけの、時間”彼女の髪先に滴る
オレンジ色に染まった瞳の中の太陽を瞼で閉じ込め、手を組み、彼女は頭を垂れる。
次の瞬間、世界はまた当たり前のように動き始める。
彼女を纏っていた無数の小さな世界が海へ還ってゆく。
太陽が昇りきり、夜が消えどこもかしこも朝になった。彼女は
海を振り返り、彼女は思う。これからもこの朝が続くのだろう、と。
”私は私を生かしてくれたこの海と、この島で、生きていく“
“これが、私たちの約束の証”
毎日、この小さな決意とともに、1日が始まる。
さぁ、今日もまた、変わらぬ1日を過ごせますよう…
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