文字数 1,053文字

11時に差し掛かる頃、香織が素麺を食べないかと声をかけてきた。もう小腹は空いていたので、早めの昼食にすることにした。
4人前の素麺を茹で、付け合わせや薬味を色々用意していたら、11時半を回っていた。
冷蔵庫で昨夜のマグロ刺を発見したので、クロには手作りツナを用意した。

「庭にいる猫、夜中も鳴いてたよ。」
自分たちとともに食事を始めたクロを見て香織が話題にした。
「あー、なんか、港で懐かれちゃったみたいんだよね。俺がいる間だけ、出入りさせてもいい…?」
「全然いいけど、その一週間だけで大丈夫なの?」
「もともと地域猫らしいから、多分大丈夫」
というよりもはや化け猫の類いだからあまり心配はしていない。
「イノリやヨシマサが知ってる猫みたいだから、念のため言っておくよ」
「ふぅん。また会うの?」
「いや、約束はしてないけど…お寺に行けばヨシマサには会えるよね?」
(そうだ、ついでに…)
少し探りを入れてみることにした。
「でも昨日会ったら皆めちゃめちゃ変わっててほんとに驚いたよ。香織ちゃんもそう思わなかった?」
「うーん…あたしが戻ってからはあんな感じだったと思うけど。まぁ成長期だし、そんなもんじゃない。」
「そっか…」
「というか、子供の頃ってさ、学年1つ違うだけで別世界だったじゃない?なのにあたしらの歳の差じゃさ、ヒロたちなんてもう、こまいのがわちゃわちゃしてるって位の印象しかないのよ」
「確かに。香織ちゃんだって家の外じゃ他所の人みたいに見えたもんな…」
子供の頃の自分の世界がなんて狭かったことか、今なら少しは分っているつもりだった。きっと、今ですらも。
「あ、でも」
「ん?」
「大前先生んとこの娘さんは、あれから結構雰囲気変わったかも」
「ミユキのこと?あれって?」
「ほら、10年位前にさ、事故があって、騒ぎになって…」
「え、全然覚えてないんだけど。俺いた?」
「あ~…確かにヒロが引っ越してからか…丁度災害の頃で」
突然その言葉を聞いて思わず強ばる。もうほとんど慣れたが、日常に急にその言葉が出てくると未だに過剰反応してしまう。
(自分は被災者じゃないのにな…)
「ヒロ?」
香織が怪訝な表情でこちらを見る。我に返り、
「で、ミユキがどんな事故に遭ったの?」
「いや、弟の方だよ」
「え!」
「まぁ怪我はしたけど今は特に問題なかったんじゃないかな…でもお母さんが大分過保護になっちゃって。お姉ちゃんの方も籠りがちというか、あんまり外で見かけなくなったかなぁ…」
「へー…」
事故のことは全く知らなかったが、昨日のミユキの変わりぶりと少し繋がった。
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