文字数 803文字

ヨシマサが再び眠ったのを見届けてから帰宅した。迎えに来た香織は心配そうだったが、入浴と着替えを済ませ、リエの見舞いに行きたいと言うと、黙って病室まで送ってくれた。

酷い貧血と診断された彼女は、病室の窓際のベッドから外を眺めていた。
「リエ、具合どう?」
振り向いた彼女は一度口を開き、躊躇うように口をつぐんだが、こちらの目をまっすぐ見て再び口を開けた。
「うん、


リエは長い苦しみから解放されたような、それでいて寂しそうな顔をしていた。
「…そうか」
コウキが

と、わかっているのだ、と思った。

「俺、明後日帰るから…」
別れの挨拶に来たのに、言いたいことが未だまとまっておらず、言い淀んだ。
「ヒロ」
「う、うん?」
「ヒロはさ、今日までずっと、いるべき時にいて、いないべき時にいなかったんだと思う」
「…」
「ヒロが10年ぶりに島に来た時、私、嬉しいとか懐かしいとかよりまず、不安で。あとは、自分勝手な期待とか…まぁとにかく何で?って思っちゃったんだけど…でも、やっぱり来るべき時だったから来たんだね」

島に来てから、何度彼女の言葉に救われただろうか。
俺は君に、何か返せただろうか。
奪ってしまっただけかもしれないのに。

「…俺、この2週間、リエに一番助けられてきたなって思う。リエがいてよかった。ほんとに、本当に、ありがとう」

謝るのは違うと思った。
だけど、下げた頭を戻しても、彼女の反応が怖くて、目を伏せたままだった。そして、そんな自分が嫌だった。
(ここまできて、逃げるのか)
覚悟を決めて顔を上げると、リエと目が合った。
その瞳に、揺るぎない何か強い意思が宿っているのを感じた。彼女はもう、


(敵わないなぁ)

看護師が検温に来たのを合図に席を立った。
「それじゃ、行くね」
「ん。じゃあね」
最後に見たリエの表情(かお)を見て、彼女はきっともう─思い出して泣くことはあっても─大丈夫なんだな、と思った。

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