ヨシマサ

文字数 1,240文字

彼女は変わった。それも突然。
どこにいても誰といても何をしていても、笑っている時ですら、常にどこか緊張している。俺にはわかる。
今はもう、異状になってからの方が長くなってしまった。でも、今の彼女は本当の彼女じゃない。絶対に、ない。
いつか、必ず元に戻るはず。
─できれば俺が、戻してやりたい。

なのに、ここ数日の彼女は殊更におかしい。そう、ヒロが来てから。
「ヒロ兄…」
昔そう呼んでいた少年がこの島に来てからの彼女は明らかに変だ。弟のコウキは気づいているのか…よくわからない。あの事故から母親が外に出したがらず、外にいる時は母親が側から離れないので、自然と疎遠になってしまった。仲が悪くなった訳ではないし、会えば普通に話すけど、学年が違うと、狭い島とは言え意外とそもそも話す機会がほとんどない。毎日の様に遊んでいたあの頃の様な、気軽に話せるような関係に戻りたかった。戻りたかったけど…。

ヒロが来て、これから何か起きるかな。
ヒロは昔とあんまり変わってなかったな。すっかり浦島太郎だから、ギャップに驚いたり、照れくさそうだったりしたけど、くしゃっとした笑顔は昔のままだった。単純にいいなって思った。
昔の関係に戻らなくていいから、新しい関係でいいから、またみんなで笑い合う日が来ればいい。本当にそう思ってる。

あぁ、でも。
だけれど、自分と同じ様に、彼女も変化を望んでいるのだろうか。
─それとも、怖れているのだろうか。

…いずれにしても、今の彼女はギリギリのところで(とど)まっている感じがする。
吉と出るか、凶と出るかはわからないけど、俺は

が起きて欲しい。
どっちになっても、絶対、支えてみせるから。


 *    *    *    *    *

寝苦しい夜だった、んだと思う。ふと目が醒めて、そのまま眠れなくなった。
少し身体を動かそうと思って外に出て、気がつくと、敷地の奥まで来ていた。
そこで流れる小川の水音をなんとなく聞いていたら、視界の端に何が見えた気がして、目を凝らした。暗くてよくわからないけど、見晴らし台の方向か…月明かりを反射する、何かが、ある。
不思議と怖いとは思わなかった、むしろ、なんか綺麗だ…。

…白い服を着た人かな、て思った瞬間、なぜか彼女だと直感した。
「ミユ…」
心の中では何度も呼んだその名前を口にしようとしたのに、言葉が続かなかった。でも彼女は俺の声に気づいて行ってしまった。
「待ってミユ姉ちゃんっ」
咄嗟に出るのは勝手に染み付いた呼び方だし、声は上擦るし…
「くそっ!」
かっこわりぃ、かっこわりぃ、かっこわりぃ!!!
不安が滲む。どうなっちゃうんだ、これから。何がしたいんだ、俺は。

本当はわかってるんだ、俺だって、留まっていることを。
前に進むのも、このままでいるのも、

のも、どれも怖くて選べてないことを。

自分じゃ選べないから、ヒロ兄に決めてもらおうとしてるってことを。

「ちくしょう…」
空が白んできた。
何もできないまま、また新しい1日を迎えてしまったのを、ぼんやりと実感した。
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