7日

文字数 946文字

祭の準備は順調で、今日からは手伝いは不要だと香織から聞いた。
今日の予定を考えていると、文机に積んだままの宿題が目に入った。
「…少し、やるか」
来てすぐの時と違って、いいペースで進む。
(何て言うか、慣れてきたんだろうな)
宿題はかなり捗った。

夕方、休憩と部活動を兼ねてカメラを持って浜辺へ散歩に出た。
(曇りのない夕陽が撮れそうだ)
水平線を見ながら撮影ポジションを探っていると、前方に人がいるのに気づいた。後ろ姿だがよく見ると、それはミユキだった。水平線の方を向き波に足を触らせて、所在投げにしている。
その身を纏う白いゆったりとしたワンピースは、あの夜のことを思い出させた。
「ミユキ」
思いきって彼女の背中に声をかけるが、わずかに振り返ったかどうかという反応だった。だが近づいても逃げる素振りは見せない。
(拒否されてる訳ではなさそうだな…)
勇気を出して、あの晩のことを尋ねてみた。
「ミユキさ、こないだ、夜中に、見晴台にいなかった?」
反応はない。波の音が一層響き渡る。
(答えてくれないか)
話題を変えることにした。
「あのさ、コウキと祭に行こうと思うんだけど、ミユキも一緒に行かない?多分イノリやヨシマサも来るし、あとリエも」
これには反応があった。振り返り、
「みんな、で行くの?」
と尋ねる。
「う、うん。多分。こないだ寺に泊まった時、チラッと話に出ただけだけど。ちゃんと誘うつもり」
「…そう」
彼女はそこで一度黙り、
「でも、私は遠慮する」
と答えたが、逆光でその表情は見えなかった。しかしその姿が
(あ)

「綺麗だ」
(撮りたい)

「あ」
(また声に出てた…)
恥ずかしさのあまり下を向いた。すぐに彼女の反応を窺おうと顔をあげたが夕陽に目が眩み、次に見た時には彼女はもういなかった。

その後撮った夕空は、太陽の名残と夜の訪れが上手く調和していて、全面オレンジ色より深みのある一枚になった。何より、こっちの方が彼女に合うだろう。
(一緒に撮りたかったな)
目を閉じると夕空に染まったミユキの姿が浮かんだが、その表情は定まらない。ふと、島に来てからミユキの笑顔を一度も見ていないことに気がついた。
「…どんな風に笑うんだろ」
見たいな、と呟く。
(島に来てから、口が軽くなってる。気が緩んでるのかな…でも)
それも悪くないかもしれないと思った。
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