10年前 12月

文字数 337文字

これは、偶然とも、予兆とも言えるかもしれない。

その雌猫は、生まれて初めての冬を迎えた。
彼女は野良だったが、漁船の停泊場の近くを縄張りにしていたので、食事も温かい寝床も容易に確保できた。少し困ることと言えば、夜中明け方と構わず稼働する照明の光とエンジン音が気に障る位だった。
その冬は暖冬と言われていたが、その日は特に暖かった。
「これじゃあ

どころか大春だよ」と漁師が一人ボヤいていたその夜、猫は自分がいつもと違うことに気がついた。
ザワザワするような、フワフワするような、熱いような、寒いような…気がつくと今まで出したことのない声で鳴いていた。彼女の驚いたことに、どこからともなく雄猫たちがやってきた。この異常事態の原因が自分だと気づかぬまま、彼女は一匹の雄猫に組伏せられた。
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