文字数 955文字

(また増えた…)
自転車から降りてきたのは坊主頭の大柄な少年だった。黒猫に気付き、少しかがんで「やぁクロ」と声をかけるが、当人(猫)は耳を少し動かしただけで、顔をあげもせず食べ続けている。
ついでに、バーガーの残りを全部やり、3人に向き合った。

その様子をじっと見ていた少年は、太めで平坦な眉毛と、大きくはないが二重のはっきりしたたれ目で、独特の力強さを感じさせる顔つきだった。
見下ろされるとちょっと圧倒される。だが茶髪の少女のような敵意は感じられない。目が合うと少年は、あ、と声を出し
「もしかして、ヒロにい?」と問う。
「え、あ、はい、えと…」
自分の名を知るこの少年に、全く心当たりがない。
「俺だよ~ヨシマサ」
「……」
記憶を探る。少年は自転車に腰掛け、砕けた調子で少女らに話しかける。
「リエ、イノリ、この人ヒロ兄だよヒロ兄。」
(…!)
自分を「ヒロにい」と呼ぶ人物が1人だけいたことを思い出した。
だが
(─!?)
「え!?」今日一番の声が出た。
「俺の知ってる

じゃない!」
記憶の中の幼馴染みは仲間内で一番小さく、坊っちゃん刈りで、眉を下げてニコニコしながらいつも自分たちの後をついてくるこどもだった。
目の前の少年と記憶の中の幼児が全く結び付かない。
ヨシマサは、
「そりゃあ10年も経てば変わるでしょ」
と平然としている。
自分よりも背の高い少年の中に当時の面影を探る内に、他の記憶も甦ってきた。そしてさっきヨシマサが呼んだ名前を思い出す。
(…え?イノリにリエって…)
「え、イノリにリエって、あのイノリと、り、リエ?」
ヨシマサの時と同等かそれ以上のショックを受ける予感に、冷や汗が出てきた。その名前

なら知っている。

ってどれだか知らないけど、昔よく遊んだ幼なじみ忘れるとか、ないわ」
と茶髪の少女。
「てかほんとにヒロ?急に何しに来たの」
と噛みついてきた。
(あ、この喧嘩腰には覚えがある)
と奇妙な安心感を覚えた。

イノリは
「確かに面影あるかも!うわぁ~すっごい久しぶりだね~」
と無邪気に嬉しそうにしている。
(この天然な感じもわかる。…それにしても)
「…時の流れ、こわ」
思わず出た言葉に噛みつかんとしたリエがヒロの後方を見てハッとした。
イノリも人影に気付き、手を振りながら声をかける。
「ユキちゃ~ん、コウちゃ~ん、ヒロだよー!」
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