文字数 832文字

食後は一眠りし、午後からクロの要望で港の方へ出掛けることにした。カメラも持って行く。

市場、港、土産物通り、砂浜…目につくものから撮った。どこにカメラを向けても、自分の記憶とは全く違う景色。
(何もかもが変わってしまったのに、幽霊に繋がるものなんて見つけられるだろうか)

結構歩いて足が重い。砂浜からほど近い波止場に座り足をぶらつかせ、ぼーっとしながらアイスを食べていると、テトラポッドから急に人影が現れた。
「あれ、ヒロ」
「…イノリ?」
ビニール袋とトングの様なものを持ったイノリがテトラポッドから上がってきた。
「何してんの、こんなとこで。あ、釣り?」
「や、違うけど、イノリこそ何やってんの」
「掃除だよ~。ここ、花火の拠点になるからきれいにしておかないと。おじいちゃんの民宿、すぐ近くだから、時間ができると来るんだ~」
「そうなんだ」
すぐ近くがホテルから民宿まで建ち並ぶ、宿泊エリアなのを思い出した。
「それに、ここは私の大切な場所だから」
海を見ながらイノリが小さく呟く。
「え?」
彼女は振り向いて勢いよく袋を付きだし
「はい、ヒロそのゴミちょーだい」
とアイスのゴミを回収した。

イノリが「きゅーけーい」と言って隣に座った。
「民宿、忙しい?」
「まぁね~でもバイトさんもいるし、なんとかなってるよ。9年前に建て替えたから設備も結構整ってるし」
「…そっか」
「あ、そういえばヒロはいつまでいるの?」
「お盆までは。お盆にここから香織ちゃんと一緒にじいちゃん家に行って、親とも合流する予定」
「そっかあ、じゃあお祭りにはいるんだね!」
「うん、香織ちゃんの代わりに準備の手伝いもすることになった」
「おぉ、じゃあ差し入れ持って遊びに行くね~」
と言いながら弾むように立ち上がり、返事も聞かずにさっさと帰って行った。
「……」
(まぁ、断る理由ないからいいんだけど)
相変わらずのマイペースだ。でも、嫌な感じはしない。むしろ彼女の去り際の軽やかさに好感を持った。
「ー俺も帰ろっかな」
足取りは不思議と軽かった。
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