4日②

文字数 1,288文字

仕度が粗方終わった頃、続々と人が入って来た。ヨシマサと炊事場へ引っ込む。
「最初はじじいたちのなっがい話だから、今の内に食べちゃいな」と知らない中年女性に言われるがまま、賄いを食べていると、リエが入ってきた。
「お、リエお疲れ~」
「ちょっと早く食べてこっち手伝ってよ」
「え、まだやんの?」
「お茶の用意。作っても作ってもキリがないんだから」
「はーい」ヨシマサは慣れているのか、残りの賄いをパクパクと平らげる。
「……」
一方こちらは普段大勢の知らない大人に囲まれる機会などなく、この余りに非日常な空間で心身共に随分消耗していた。もうあとは帰るだけと一安心していた身体に力を入れる元気はない。
リエがそんなヒロを一瞥して
「気合っ」
と喝をいれた。
「っ、はいっ」
思わず最後のタコ唐入りおにぎりを口に押し込み、水で一気に流し込んで立ち上がった。

そろそろお偉方の長きに渡る演説が終わろうとしていた。
この後は寺を拠点とし、それぞれの持ち場で作業という流れになるらしい。とはいっても寺には作業する者だけでなく、様々な関係者が訪れるので、いつまでも忙しいらしい。長きに渡る戦いに備えて黙々と準備をしていると、会場から歓声の様などよめきが聞こえてきた。
「あ、コーキ来たかな」
ヨシマサの言葉にピクリとリエが反応し、紙コップを一つ落とした。
「なんでコウキ?」
「え?あ、ほらこのローテーション式の祭を考えたのコウキだから」
「え!」
「もちろんちゃんと形にしたのは大人たちだけど、きっかけはコーキのアイデアだったんだよね」
「え、何それすごいじゃん」
「だからさ、今でもこういう場に顔出すとおいちゃんたちコウキのこと持ち上げて喜ぶのよ。でもコーキはそういうの好きって訳じゃないから、普段は顔出したりしないんだけどね」
「ヒロがいるからでしょ」
(え、俺?)
「…あ、確かにここで会う約束?したかも」
「なぁーに、何かあんだったら30分ばかし休憩してきてもいーよぉ」
と、近くでトウモロコシをふかしていた老女に言われたので、3人で広間へ向かった。するとちょうどコウキが広間から出てきた。
「もしかして炊事場の方だった?」
「あ、うん。お茶作ってた」
「そっか、お疲れ様。すれ違いになったら残念だなって思ってたから」
「え、コーくんもう行くの」
「明日、模試があるから準備しなきゃなんだ。ほんとは御輿の組み立てとか、手伝ってみたかったんだけど」
「あ、御輿は昔もあったやつ?そこそこ立派な」
「そうそう。細かい装飾とか、近くでゆっくり見たくて」
(ふ~ん、あの御輿は簾が多くて、カラフルな紐が一斉に揺れる感じが映えるんだよな…)
そこまで考えて急に思い出した。
「あ!」
「え、何!?」
リエが驚いて声をあげた。
「映えるで思い出した、カメラ忘れた!」
「いやハエルって何の話」
「マサ、俺一回家にカメラ取りに戻っていい?準備の様子とか、撮影してって香織ちゃんに言われてたんだった!」
「ん、わかった~気をつけてってね」
「あ、じゃあヒロ、途中まで一緒に行こうよ」
「コウキも、き、気をつけてね」
「うん、ありがとう、それじゃ」
爽やかに挨拶するコウキと共に、寺を後にした。
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