文字数 1,445文字

昨夜は夜遊びしたせいか、なかなか眠れなかった。
加えてサイクリングの疲れもあったのだろう、今朝は随分寝坊をしてしまった。

本日は快晴。日は高く晴れ渡り、蝉たちは
今日が一番元気がいい。
遅い朝食(兼昼食)を食べ、縁側でデザートのスイカを噛る。寺には14時までに行けばよいので、焦る必要はない。ゆったりとした時間が流れる。
(タイムスリップしたみたいだ)
もしくは、今の時間だけ切り離されてふわふわと浮いているような、そんな感覚。
(明明後日には、もうここにいないんだよな…)
もうすぐ元の生活に

のが嘘みたいだった。むしろ島に来る前の生活が非日常に思えてしまうのは、この生活にすっかり馴染んでしまったからだろうが、やっぱり不思議な感覚であり、嬉しいようでもあり恐ろしいようでもあった。
仰向けになって目を閉じる。床の冷たさが心地好い。
(まぁ、いいかぁ~)
今はこの気持ちよさに身を委ねることにした。

集合時間より少し早めに着いたのだが、境内は既にすごいことになっていた。
駐車場は満車で、無理やり奥の方に停めているものもある。
門をくぐってすぐのところには神輿が鎮座しており、その周りでは担ぎ手たちが何人も準備している。
広間を覗くとこの前と同じ位食事や飲み物が並んでいた。炊事場は今日も大騒ぎなのだろう。まさにお祭り騒ぎだ。
(わくわくしてきた)
祭が、始まった。

15時にここから神輿が出発し、本部のある商店街広場まで練り歩くことになっている。
今日の仕事は主にその道中の撮影だ。関係者タグを首から提げて、どこでも撮っていいことになっている。
「お、ヒロ」
振り返るとヨシマサがいた。半纏を着てハチマキを巻いている。少しサイズが小さい気もするが、ほどよく引き締まった筋肉質の四肢が露になって、独特の迫力がある。
「お~かっけー…」
思わずシャッターを切る。
ヨシマサは気をつけの姿勢で
「今日は撮影よろしくお願いします」
とかしこまった。
つられてこちらも姿勢を正す。
「が、頑張ります」
ヨシマサはニッと笑って
「17時に本部前集合だからね」
「うん、わかってる」
「じゃ、それまでお互い頑張りましょ~」
ハイタッチを交わしお互いの持ち場に向かう。
「よし、やるか」
声に出して、気合いを入れた。

神輿の出る時間までは、境内をくまなく撮影して回った。炊事場の女性たち、担ぎ手の父親とお揃いの半纏を着てはしゃぐ子供たち、広間で既に

な年配者たち…。炊事場は湯気の熱気でレンズが曇り、何度もカバーを拭くはめになった。だが、顔を真っ赤にして働いてる彼女らは、とても生き生きとしていて魅力的であり、何枚も写真を撮った。リエが額に汗を光らせ次々とおむすびを握りあげる姿なんか、コウキにも見せてやりたいくらい格好よかった。
神輿も撮った。日の光を受けて、堂々と光り輝いている。簾の一本一本が艶めいていて美しい。準備中に倉の中で見たのとは全然違った。
舞台裏独特の熱気にうかされて、時間いっぱい夢中で撮った。

15時。空に祭開始の昼花火があがった。
いよいよ神輿が寺を出る。担ぎ上げられ揺れる神輿はまるで生きているようで、ますます美しい。
ヨシマサが出発の合図を叫ぶ。そのよく通る声は、ずっと聞いていたくなる程だった。呼応する他の担ぎ手たちの声もどんどん高まり、神輿の勢いが増していく。近くにいるこちらまで、彼らの熱気で、ますます暑い。だけどそんなの気にならない位、夢中になって撮った。
(みんな、すごくいい顔してる)
どの瞬間も逃したくなくて、必死でシャッターを切り続けた。

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