文字数 768文字

寺に着いた時には、花火までもう10分もなかった。
「まず裏道に行こう」
「そうだな」
立ち入り禁止の看板はあるが、封鎖されている訳ではないので、子どもが入ってもおかしくはない。
裏道をゆっくり進みながら少年の名を叫ぶ。
「いないのかな」
後方のヨシマサが自信なさげに呟く。
「いや、ケガとかして声が出せないのかもしれない。ここは道を外れると危険だ」
先頭を注意深く進む、ここの崖から転落したコウキが言うと説得力しかない。
「でも暗いよ」
確かに頼れるあかりは月のみだ。満月とは言え、木陰で見えないところの方が多い。
「できるだけやってみよう。もう少し奥まで…あ!」
小石か何かにつまづいた弾みにカメラのレンズカバーが外れてしまった。
「どうしたの?」
コウキが駆け寄って来た。
「あ、カメラのレンズカバー落としちゃって…」
あれがないのは心許ないが、さすがにこの暗さじゃ
「諦めるしかないか…」
切り替えてケントを探そうとすると
「あ、ほらあったよ」
コウキが少し手前の木の根元に手を伸ばした。
「はい」
「あ、ありがと」
「うん、じゃ、ケントくん、探そう」
「うん」
(………)
その時ふと、何か、言葉にならない違和感が。

「花火が上がれば、もっと明るくなって探しやすいんだけどなぁ」
ヨシマサがもどかしげに言う。
「そうだな…」
生返事をしながら、コウキの後ろ姿を見て、ふとさっきの違和感が口からこぼれ出た。

「コウキはよくこんな暗い中、月明かりだけでカバー見つけたな。まるで」

まるで

みたいに」

















頭上が一気に明るくなった。
花火が始まったのだ。

振り向いたコウキの顔は、降り注ぐ花火の影になって見えない。

「うん、そうだよ」

「…コーキ?」
いつの間にかすぐ後ろに来ていたヨシマサが、不安そうな声で名前を呼んだ。

不思議と周りの音は一切聞こえない。
コウキの声だけがまっすぐに届く。

「僕はあの時死んだんだ」
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