文字数 1,425文字

考えながら運転していたので、帰りに道を一本間違えてしまった。
その道は寺に続いており、門前でヨシマサが水を撒いていた。
「あれ、ヒロ兄どうしたの」
「道間違えて…あの、その“ヒロ兄”って、止めない?」
「何、照れてんの?」
「ん、まぁ」
(むしろそっちのがサイズ的にはお兄さんだし)
とまでは口にしない。
「ふ、ははっ、わかった、じゃあ、ヒロね」
「…ん」
弾けた笑顔を見て、やっぱりまだこどもかもと思ったが、いずれあの呼称は恥ずかしかったのでホッとした。関係が新しくなった感じがして少しくすぐったくなる。照れ隠しに視線をずらすと
(あれ?)
「なぁ、ここって寺だよな?」
「え、うんそうだけど」
今さら何をと言いたげな顔をしてヨシマサが答える。
「なんか、そこの奥の方、鳥居?みたいなのない?」
普段は駐車場にでもなっていそうな砂利が敷いてあるスペースの奥、藪に埋もれる様に小さな鳥居があった。
「あぁ、うち、もとは神社だったから」
「は?」
「かなり昔のことらしいんだけど、もともとここは海だか山だかの神様を祀る場所だったみたいなんだよね。でも、一時管理する人がいない時期が続いて、その後一人のお坊さんが住み着いて、寺になったんだって。」
「へぇ…」
「寺になってからはずいぶん経ってるみたいなんだけどね。建物は建て直したり寺門は新しく作ったりしたんだけど、壊れてない鳥居とか祠とかはそのままにしてきたみたい。」
それを聞いて思い出したことがあった。
「そういえば、境内の裏の遊び場にも、ちっちゃい祠みたいなのあったな」
「…あぁ、あれはもうないんだけど、そうだね、あったあった」
ヨシマサはちょっと黙ってヒロを見つめ、
「何かいっぱい聞いてくるね」
と言った。
「え、あー、10年ぶりだし色々思い出さなきゃな~、と思って」
ヨシマサの目力に気圧されつつ答える。
「んー」ヨシマサは小首を傾げ、
「思い出すのもいいけどさ、新しいことをたくさん知るのでもいいんじゃない?」
と屈託なく笑った。
「あ、でもそういえばさ、昔よくサッカーで遊んだじゃん?」
「人少ないからパス回しばっかりだったけどな」
「俺、今フットサル部だからめっちゃ上手くなったよ」
「え!フットサル部!?」
髪型から野球部だと安易に思い込んでいた故のリアクションであることがわかっているのか、
「全校生徒数少ないからできる部活が限られてんの。でも俺、ちっちゃい頃からサッカー派ですから」
と、頭を撫でながらにぃっと笑った。
「そっか。よく一緒にサッカーで遊んだよな」
決めつけを反省している内心を誤魔化し、平静を装い応える。
「ヒロに…ヒロはリフティング上手かったよね。めっちゃ憧れてさぁ…今もやってるの?」
「いや高校は写真部…あ」
「?」
課題をこなすためにカメラを持ってきていたことを思い出した。
「コンテスト用の写真の提出が必須でさ。いる間にここら辺も撮影してもいいかな?」
「いいと思うけど、一応親父にも聞いておくよ」
礼を述べ、帰路に戻った。

道中、ヨシマサとの会話を振り返った。
(…そうだな、確かに懐かしいことだけじゃなくて、新しいことを話したっていいよな)
懐かしい人に再会した上、新しい友人を手に入れたような感覚に、わくわくしてきた。
そして、バッグの底にあるであろう忘れ去られたカメラに思いを馳せる。島でなら何かしら撮れるのではと持ってきていたのに、驚きの連続で、部活のことなど吹き飛んでいた。
(色々調べる時に撮影を名目にしたら便利かな…)
と考えながら帰宅した。
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