文字数 1,134文字

市街地にある主要駅から終点の港入口まで快速電車で約1時間半。昼にさしかかり、小腹が空いてきた。
(船に乗るまでに何か買っておこうか)
先に乗船券を買うことにし、改札を出て船付場の方へ向かう。

丁度船が到着し、降りる人々で少し混雑しているところだった。その内の1人のカバンから何か落ちたので、拾って落とし主へ声をかけた。
「お、俺の診察券、気づかんかった!危ねぇ危ねぇ。兄ちゃん、あんがとよ!」
と、中年男性の威勢に若干気圧されるも会釈して券売所へ踵を返すと、「兄ちゃん、待ちな!」と呼び止められた。訝しみつつ振り向くと、「これやるよ」と左手に持っていた小さめの紙袋を差し出された。ナイフとフォークを持った猫のイラストが印刷されている。
「船に乗る直前にもらったんだけどよ、良かったら食べてよ」
中を見ると薄紙に包まれた肉まんの様な物が大小で二つ入っている。
「人間と猫のバーガーなんだとよ。なんかイベントやっててよ、ほら、島の一部では猫で観光客呼ぼうとしてっからよ。猫の分はあっち着いたら適当にくれてやったらいいよ」
「…」
(これから病院行くのにもらったのか)
「いやぁ、もらえるもんは何でももらっちまう性分でよぉ、よく考えたら俺これから病院だし、猫なんか飼わねぇしよぉ、助かるよ兄ちゃん!!
とにかっと笑う。
内心が伝わったかとドキリとしたが、向こうはあっけらかんとしていた。
「…っす」と、もごもごしているうちに男はヒラヒラと手を振って去って行った。
思わぬ出来事に今さら鼓動が早まり、深呼吸して落ち着かせた。

思いがけず食料を手にしたので、自販機でコーラを選び、券を買ってそのまま乗船した。島までは高速船で約1時間、余裕はあるが早々に袋を開けた。紙袋の上部がしわくちゃなのは、持ち手が無いし握っていた手が大きいからだと思っていたのだが、
(持て余していたからかも)
にかっと笑った日焼け顔を思い出して、くすりと笑った。さっきの─“地元民との交流”とでも呼べばいいのか─他人の日常と自分の非日常が交錯した感覚に、心が弾んだ。
(旅って感じ。テンション上がってきたかも)
もらったバーガーは、バンズが黄色がかっており、パティは魚の味がした。添付されていた説明書きによると、バンズはカボチャ、パティはツナをベースに作られているらしい。材料はできるだけ人間と猫どちらも同じものを使用したとある。
(結構おいしいけど、)
「コーラじゃなかったかな」

食後は船内でくつろいでいたが、到着10分前のアナウンスを機に窓際へ行き、外の様子を見る。10年ぶりに見る島の姿は初めて見るかの様で、懐かしさは感じられなかった。
(住んでた時は外から見た姿って意識しなかったもんな)
まるで知らない土地に訪れる様な不安と期待に包まれた。
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