第16話 幼なじみ

文字数 1,242文字

 一方、武黒と月佳姫は書庫にいた。朝日がまぶしい。

「おう、武黒が本なんて珍しいな」

 武黒と同い年くらいの青年が声をかけてきた。武黒の護衛仲間ではあるが、ゴツさはなく中性的な顔立ちの美青年だ。

蘭丸(らんまる)、邪魔すんな」

 武黒に抱きついてきた男、蘭丸を武黒は本から目を離さず、あっちいけと追い払う。蘭丸は細身ではあるが体つきはやはり近衛、筋肉質であり武人から見れば戦い慣れた者であることは一目でわかってしまう。

「へぇ、そういうこと言っちゃうんだ」

 しかし蘭丸はそう言うと、武黒からあっさり離れていった。いつもなら面白がってもっと絡んでくるのだが、珍しいこともあるもんだと思う。でも武黒は特に気にせず文献に目を通す作業に戻る。そしてすぐに蘭丸が誰かと話しはじめた声が聞こえてしまった。

「はい、月佳姫。武黒の行動報告書です」

 少し遠くから聞こえる蘭丸の声。
──今、なんって言った?
「いつもありがとう。あら、昨晩は花札で同僚から酒代を巻き上げ……」
 月佳姫が読み上げるのは、間違いなく昨晩の飲みながら行った賭博の戦績。

「お前か。悪事を密告してたのは!」

 武黒は立ち上がった。思い切り蘭丸を睨む。
「親友のためだよぉ」
 へらりと笑う蘭丸。隣でにこにこ笑う月佳姫。
「テメェなんざとはただの腐れ縁だ!」
 武黒の発言にニヤリとする蘭丸。

「いいのかなぁ。これからは真白ちゃんの護衛は育ってきた後輩に譲ろうかなぁ」

 蘭丸は武黒の弱点、妹のカードを切った。最近、反抗期なのか兄の護衛を断るくせに蘭丸の護衛は喜ぶのも気にくわない。しかし年頃の妹に若い男が近づくのはもっと気にくわない。武黒の額に青筋が浮かぶ。

「それにもう、地元の美味しいお酒持って武黒の部屋に遊びに行けなくなるのかぁ。ただの腐れ縁なのに夜中に押し掛けるのは悪いよねぇ」

 二日酔いになっても護衛の交代してやらないよなどなど暗に脅す蘭丸。

「ただの腐れ縁かぁ。友達とすら思ってなかったのかなぁ」

 悲しそうなふりが白々しい。ちなみに酒豪である武黒を唯一潰せる相手である月佳姫はせっかく仲良しだと思ったのにと嘘泣きしている。だが、武黒も啖呵(たんか)を切ってしまった。今さら嘘ダヨ。これからも友達ダヨなんて口が裂けても言えない。なら、絶交宣言はどうだろうか。武黒は思い付いてしまった。
「あぁ、友達辞めてやるよ……1日だけ」

 だが、幼馴染から出てきた発言に苦しすぎると蘭丸と月佳姫は素直に思った。乱暴なだけで、腐れ縁だのなんだのと言いながら仲間思いな面はあることを二人はとっくに知っている。そこが武黒の良いところなのだが、もっと素直になれよと思ってしまう蘭丸と月佳姫。穏やかな日常のやり取りがこの後も続く…はずだった。その時だ。

「うわぁぁ」

 突然書庫に響く叫び声。まだ声変わりしていない少年の叫び声と共に、奥の本棚の書籍がどさっと派手に落ちる音が聞こえた。
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登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

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