第47話 このままでいれたら

文字数 1,201文字

 真白は魔女と書斎で向き合っていた。

 魔女に淹れてもらったどう見てもほとんど牛乳で薄めた甘いコーヒーを飲みながら、魔術を学ぶのが日課状態になっていた。そして、真白はあることに気付き、魔女に問う。魔女の口が弓張月のように歪む。そして魔女は彼女のある質問にイエスと答えたのだった。
 
 魔女はそれを聞いて考え込む真白を見た。

「でも、りゅかと奥美を襲った魔術師の正体、なぜドラゴンの力を欲したのかわからないことも多いわ」

 真白は視線を魔女に戻す。

「でも確かなことは、彼らの強い魔術によって人の運命(みちすじ)が、世界の(ことわり)が歪められてしまったこと」

 魔女は真白をまっすぐ見つめた。

「彼らのせいで不完全な状態で生まれるはずのなかった命が沢山誕生してしまったことね。魂の不足した真白や、元々、体のなかったポピーのように」

 真白はハッとした。精神がなければ、魂と体を繋ぎ止めることができない。しかし、体と精神だけでも生きていくことは可能なのではないか。

──魂がないから、動くこともできないけれど。

 あの棺に納められた自分のように眠り姫になってしまう。それは精神さえあれば、魂が無くても存在できることを意味する。ならば、体がなくても精神さえあればどうなのだろうか。

「りゅかを魂と精神だけの、本当の意味で幽霊にすることは出来ませんか?」

 真白は魔女を見つめた。しかし、魔女は首を横に振る。

「無理ね。本来、幽霊は長く存在できないわ。魔術で干渉をしない限り」

 なら、魔術でと言いかけた真白をそれはいけないことだと魔女はさとす。

「体と魂、それをつなぐ精神があって、はじめて命は存在できる。それが魔術の基本」

 何一つかけてもいけないはずなのに、生まれてしまった不完全な命たち。それは魔術の干渉があったから起きてしまった異常事態。

「ポピーは生まれつき魂だけの存在だから、魔法で体を作ってそこに魂を定着させたけど、りゅかに体を作っても、生まれ変わりであるあなた以外の体には定着できないわ。精神は心と呼ばれたり、思考と呼ばれたり、単に体と魂の接着剤と思われてたりする曖昧なモノだけども、魂は命の本体だもの。体を選り好みする」

 元々、体があったりゅかの魂が定着できる体は真白のみだと魔女は言う。

「そろそろ朝ごはんの時間よ」

 魔女はうなだれる真白に声をかけた。この狭間と呼ばれる場所は、本当に魂と体の境界が曖昧な世界だ。ポピーのように体がある者も、魂だけの者も同じように日常生活が出来てしまう。

──ずっとここにいられればなぁ。

 真白はりゅかと二人でいられればと思ってしまう。兄のことを思うと心が痛むが、何かあれば龍が生まれたせいだと責められる世界よりずっとここは優しい。

──それに誰かを犠牲にする選択なんて、私には出来ない。
 
 
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登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

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