第61話 ずっと一緒
文字数 1,040文字
──確かこれはベッドよね。
真白は、自分が高い場所で寝かされていることに気付いた。だが、この部屋は魔女の家と違ってだいぶ質素だった。一つの部屋にベッドと食事をする机があり、ぎっちりと洋書がつめられている本棚もあった。暖かい部屋。
──良い匂いがする。
魔女の家で食べたことがある野菜や肉を煮込んだスープの匂いだ。名前は確かポトフ。美味しかったので覚えていた。匂いのする方向を真白は見た。真白の瞳が暖炉に立つ男性の後ろ姿をとらえた時だった。
──えっ?
そこに立っていた後ろ姿はあまりにもなつかしい雰囲気を放っていた。袖とフードに青い糸で呪文が刺繍された白いローブ。
──でも大人だし……。
ただ、彼は確かに金色に輝く短い髪をしていたが、背丈からして大人だ。武黒と同い年くらいだろうか。真白が考えていると、彼も真白の視線に気付いたのだろう。
「目が覚めた?」
彼は暖炉にある大鍋をかき混ぜながら声をかけてきた。低い声だった。そこにはもう少年の面影なんてどこにもない。でも振り返った顔を見て、真白は固まってしまった。
──りゅかなの?
彼の優しそうな深い青色の瞳がこちらを見つめる。いつものように微笑んで。
「倒れてたんだよ。大丈夫?」
彼はそう言いながら、左手で食卓にあった木のお椀に手を伸ばした。先ほどまで混ぜていたレードルを使って熱々のスープをお碗に注ぐ。注がれたポトフの良い香りがベッドにいる真白にまで伝わってくる。彼は具沢山のスープに、食卓にあるガラスの瓶から同じく木で出来たスプーンだけを取り出すと、それをお碗に入れた。そしてそのお椀をベッドのすぐ近くにある小さなテーブルに置く。だが、真白はそんな彼の仕草や顔から目が離せないでいた。本当にそっくりなのだ。瓜二つと呼べるくらい似ている。りゅかに。しかし、彼はじろじろ見てしまった真白に対して嫌な顔をせずに、人の良さそうな顔で微笑む。
「ご飯食べれるかな?」
真白は我に返り、うなづいた。真白は口を開きかけて、閉じた。それを見て男性はにこりとした。
「あぁ、まだ名前名乗ってなかったよね。俺はリュカ。よろしくね」
真白はリュカに抱きついた。彼のお腹に顔をうずめる真白。突然抱きつかれた彼は驚いた顔をして真白の頭を見つめていたが、やがて真白を抱きしめてくれた。