第57話 凰美の龍が輝くとき

文字数 1,343文字

 真白は寸前のところで、上昇する。だが、黒い龍はそのまま地面に体を叩きつけてしまったようだ。
「ぐはっ」
 地面に龍の血が飛ぶ。黒い龍が地面に叩きつけられた衝撃で口から血を吐いたのだ。しかし、黒い龍は執拗に、真白たちを追おうと再び上昇した。

──痛みを感じていないのか……回復はしてないようだけど。

 真白はすぐに追ってきた龍を横目に見た。どう見ても傷だらけの龍。真白は攻撃せず逃げる選択肢を選んだ。

──もう誰も消さない。魔女さんも助けたい。
 これ以上攻撃を受けたら死んでしまう。
 だが、この龍はなおも追ってくる。所々、むき出しの傷が痛々しい。黒い龍が再び血を吐いた。

──やはり、狭間の龍は幻影だったのか……。いや、待てよ。なぜ月の力を使えたのか。

 魔術は自分の力を使うものだ。月の力を利用できるのは巫女の力。もしかしたら真白は大事な事実に気づいていないのかもしれないと思った。

──あの狭間は月の力を使って造られた世界。

 あの世界(狭間)を造ったのは魔女サリエルのはず。

──そういえば、魔女さんは巫女の力に詳しかった。

 東西問わず精通しているといえば、それまでだが巫女の術と魔術の違いを語れるのは、巫女の力を熟知しているからこそ。

「ねぇ、りゅか。ウィザードって巫女の力も使えるの?」

 真白は逃げながらもりゅかに聞いた。りゅかは術を放って、黒い龍の攻撃魔法を相殺していた。空に響く爆発音。巻き上がる煙と衝撃波。

「えっ、そんな訳ないでしょ。僕の独学だよ」

 真白は煙から逃げるように下降していく。これで時間を稼げる。これ以上傷つけないための。確かにりゅかは、本を読みながら真白に術を教えていた。だが、ベースが魔術師だからだろう。巫女の力とは言えない術が含まれていたりもしたのも事実。

──確か、母上は魔術の考え方を学ばせるために、りゅかに私の師匠になってほしいと頼み込んだんだよね。

 何のために? 真白はハッとした。そう、わざわざ魔術と巫女の力を学ばせた理由。魔女が凰龍と真白たちを守った理由。全ては繋がっているとしたら?

「お辞めくださいませ。サリエル様……いえ、凰龍様!」

 真白は叫んだ。黒い龍の正体を。真の名を。黒い龍の動きが一瞬鈍る。

──やはり。私はあなたを救いたい!

 真白は覚悟を決めた。彼女の正体を見破った。だけど、真名(まな)は知らない。月佳姫や武黒もまた役職名みたいなものだ。真名は史面に残らない。

「私は奥美の巫女、真白と呼ばれる奥美の龍!」

 それでも賭けてみよう。我が真名にかけて。

「私の名は奥美の瑠可(りゅか)。我が真名にかけて凰龍様の心を守ってみせる!」

 真白の首にあった瑠璃が光を放つ。巫女の力は癒しの力。ならば巫女の力にかけて凰龍様を守ってみせよう。青い光が真白と武黒達を、黒い龍を優しく包む。満月の夜空に浮かぶ瑠璃色に輝く優しい光。Lucas(リュカ)の生まれ変わりである真白も大陸の読み方ではあるが、瑠可(りゅか)。二人で一つのりゅかなのだ。

──ありがとう。真白。

 黒い龍から確かに声が聞こえた気がした。真白たちは瑠璃の放つ青い光に包まれていった。
 
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登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

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