第12話 動き出した時間

文字数 836文字

「はい、武黒に隠していたことを謝ります。龍の力を欲した西の諸国の術者達が屋敷を襲わせたのは間違いありません」

 月佳姫は武黒の目を見て告げた。沈黙がおりる。無表情な彼から表情は読み取れない。武黒はきっとなぜ隠していたと詰め寄るだろう。俺の今までの努力は何なのかと。月佳姫は覚悟を決めると、武黒を見つめた。武黒は深呼吸をしてから口をやっと開いた。月佳姫をまっすぐに見つめて。

「いや謝ることはない。俺たちに言えない理由があったんだろ。月佳のことを俺は信じているからな」

 だが武黒の目に怒りの色はなく、まっすぐと月佳姫を見つめている。
「武黒……?」
 月佳姫は思わず名前を呼ぶ。

「まずは真白を助けるのが先だ。その後、仇を打ちに行かねぇとなぁ」

 武黒は不敵に笑った。やっと突き止めた仇。武黒にとって止まっていた時間が動き出したのだ。
 
 §
 
 夜もだいぶ()けた頃、魔女とりゅかは何やら話をしていた。

「あの娘の体、だいぶ弱ってるわね」  

 魔女は大きな椅子の肘掛けに頬づえをつき、もたれたままだ。足を組んでいるせいで、はらりと見えてしまっている脚をお互いに気にしていない。りゅかは椅子に座ることもせず、魔女の顔を見ていた。その顔はいつもの穏やかな様子はなく、代わりに険しい表情だった。真白の様子を見て来たらと魔女が投げ槍に言う。りゅかは黙ってうなづくと下がろうとした。

「強い力があると、性格が歪むみたいね」
 自嘲気味に魔女は呟いた。りゅかは開けようとした扉に手をかけたまま振り向く。
魔術師(ウィザード)ってそういう職業(モノ)でしょう?」
 りゅかが顔色一つ変えず問い返す。何を感傷に浸っているのだと言わんばかりに。

「そうね。人の命すら魔術に使えると真っ先に考えてしまう嫌な職業よね」

 魔女は最後に今さらかと呟くと、りゅかは扉を開けて、どこかへ消えていった。魔女は、りゅかと交代で入ってきた侍女に何やら指示をした。
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登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

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