第33話 世界の理

文字数 1,230文字

 あれから何日か過ぎた。

 夕食後、真白とりゅかは書斎のテーブルで勉強していた。夜はポピーと話すか、りゅかと魔術について調べるのが習慣化してきている。

 山のように積み重なった分厚い書籍、テーブルと言っても書庫にあるような長机ではなく、ランプが置かれた小さなテーブル。一人でお茶を飲みながら本を読むには十分かもしれないが、二人だといかんせん狭かった。

「うーん、やっぱり魔術って全然考え方違うんだね」

 真白は頭を抱えた。二人はあえて、テーブルの上に読む予定の本だけを置き、自身の膝の上で各自本を読むことで、このテーブル狭い問題を解決したのだ。

「どこがわからないの?」

 りゅかは顔をあげた。やはり、りゅかは真白にとって師匠である。

「魂とか、死者を蘇らせるとか、自分たちには無い考え方だなって」

 真白は素直に感想を述べた。読んでいた本のタイトルを見て、あぁと納得するりゅか。

「どこの世界でも一緒だよ。死者が蘇らないのは。いや、蘇ってはいけないんだ」

 りゅかの声のトーンが低いことに真白は気づいて、りゅかの顔を心配そうに見つめた。

「人の命は魂、精神、体の三つで構成されているのはどこでも一緒さ。龍と呼ばれる存在だって、体が龍になったり人間になったり出来るだけで、魂と心は一つずつだよ」

 りゅかはそう言うと、何か考えはじめている真白に遅いからもう寝ようと告げた。真白はそうだねと返すと、りゅかの後に続いて書斎を出ることにした。

 りゅかが真白のために扉を開けて、リードしてくれたのでお礼を言うとりゅかは微笑む。りゅかがふぅと部屋に息を吹きかけると、書斎の明かりが全部消えた。それを確認したりゅかは書斎の扉を閉めた。

 りゅかの後ろを歩きながら、真白はさっきの話について考えていた。術者と魔術師では考え方が違うのだと、りゅかと議論していていつも思う。そして何より。

──りゅかもやっぱり魔術師なんだ…。それでも信じてるよ……。

 ここに来てから真白は、りゅかの意外な一面どころか、違う顔を沢山見た気がした。そして、魔術師が自分と無関係な存在でないという証明をりゅかから突きつけられている気がするのだ。

──やっぱり魔術師が関係してる……。

 わかりそうで、わからない手掛かり。なぜ奥美は狙われたのか。真白はりゅかに悟られないようにしながら、十年前の手掛かりを探していた。表面上は元の世界に帰るための調べものだが、満月の夜に迎えに行くと言った兄を信じて真白なりにこの屋敷で、自分ができることをしているのだ。

──でも……なんで、りゅかに隠さないといけないと思うんだろ。

 真白は何となく直感でりゅかに隠している。余計なことは言わない。それがりゅかや城で学んだ処世術。りゅかはきっと関係ないはずなのに。

 それでも真実の先にりゅかがいないと真白は思い込んでいた。思い込もうとしていることに真白は気付いていなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み