第36話 棺に眠る少女

文字数 1,349文字

 真白は目が覚めた。ふかふかの何かに寝かされている。だけどそれはベッドではなくて、箱の中に自分はいるようだ。

「ポピー」

 ポピーが真白の眠る箱の横に立ち、ハサミで綿を切っているのが見えた。ちょうどいい大きさになったようで、ポピーはまっすぐ真白の顔を見つめた。なのになぜか、真白を見ていない気がする。目があっているのに、目があっていない。

 ぼーっとしていて動けないでいた真白の口にポピーはゆっくりと綿を詰めはじめた。綿の余りとハサミを真横にあったテーブルに置くと、水差しを手に取るポピー。

「今度は真白がむせないといいけどな」

 しかし、ポピーからは殺気を感じない。むしろ、真白を気遣っている感じすらある。

──もしかして看病してるの??

 倒れた真白を心配してくれているのだろうか。ポピーは善意で突っ走る傾向がある。

──待ってポピー!

 しかし、真白の願いは綿を詰められている口から声となることはなかった。その間にも水を綿に染み込ませるようにゆっくり流しはじめたポピー。

「ポピー、そんなことしなくたって飲めるよ」

 真白は思いっきり叫んで起き上がったと自分では思っていた。

──あれ??

 すぐに自分が宙に浮かんでしまったことに気付く。幽体離脱だ。自分の下には狩衣姿で穏やかに眠る自分がいた。巫女であれば簡単に出来ること。更に言えば、他人の魂を抜くことだって雑作もない。

──魂を飛ばした記憶なんてないのに。

 だが、真白はいつ自分が魂だけになったのか首をかしげた。

──今か? いや、もっと前……。

 下には自分のお世話をするポピー。そして自分が寝かされている場所を見て、またも驚くことになる。

──棺桶?

 棺に寝かされたまま、静かに眠る少女は確かに真白だった。辺りを見回す。ここは石を積んだ壁で作られた塔の中のようだ。塔は吹き抜けになっており、一階しかスペースはない。一階には眠る真白の体と、それを世話してくれているポピーがいる。しかし入り口は一階から階段を少し上がったところにあるようだ。同じく石を積んで出来た階段を上がったところに木の扉があった。真白はぷかぷか浮く感覚が心地よくて目を閉じようとした。その時だった。

「真白……」

 りゅかの声が下の方から聞こえた。どうやらりゅかもこの塔にやってきたらしい。ポピーの隣にいるりゅかの元へ真白は降り立った。すると、ちゃんと普段と変わらず立っている自分がいることに気が付く。相変わらず自分の体は棺桶で眠っているが。しかし今度は、ポピーが心配そうに魂の方の真白を見つめてくれた。

「ここに連れて来たのに、この娘の体は弱っていく一方ね」

 真白は新たに声がした方を見た。

「魔女さん」

 真白は彼女の名前を呼んだ。魔女は階段をゆっくり下りて、真白達に近付く。

「やはり、真白との契約の時が迫っているからか」

 魔女がそう言って視線を向けると、りゅかはうつむいた。真白は何のことかわからず、りゅかと魔女を交互にみやる。

「あなたは奥美の巫女とウィザードであるりゅかとの契約によって助かった存在なのよ」

 だから、りゅかとの契約を守らなければならないと魔女は続けた。
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

武黒~ぶこく~

真白の兄。職業は侍(サムライ)。

身長187cmの大柄な男性。剣術の使い手。

性格は乱暴だが良い兄であり、仲間思い。国内最強の侍のはずなのに、なぜか月佳姫にだけは逆らえない。

真白~ましろ~

白い龍の化身であり巫女。

身長130cmの12歳。普段は巫女袴や狩衣を着ている。

兄は2m近くあるのにも関わらず、なぜか伸びない身長に悩んでいる。

異世界でドレスを着せてもらったら、本当に歩くお人形さんみたいになってしまい、ポピーと魔女さんの着せ替えごっこに付き合わされている。

りゅか

実は当代随一の巫女を凌ぐ実力だった真白のお師匠さま。自称幽霊。本来、まだ死ぬ運命ではなかったらしいが…。

身長135cm。

月佳姫~げっかひめ~

当代随一の巫女。おっとりした女性。武黒の幼なじみ。

酒・賭博・喧嘩な武黒に時には苦言を呈することも。怒らせると怖い。実は武黒達のために厳しい修行に耐え、当代随一と呼ばれるほどの実力者になった努力家。

魔女さん

妖艶な謎の女性。どの世界にも属さない狭間と呼ばれる世界に住んでいる。普段は狭間にある荒野の洋館にポピーと二人暮らし。りゅかと仲が良いようだけど…。お酒と本が好きな美女。

蘭丸~らんまる~

東見(あずまみ)の領地の次男。武黒達の幼なじみ。武術に秀でている。弓と剣術の腕はなかなかのもの。ちなみに身長183cm。

困った兄弟達に悩まされている。

藍炎~らんえん~

東見(あずまみ)の領主。蘭丸の兄。

物腰はやわらかいのだが、女性好きであり、実際、よくモテている。

かなりの酒豪でザルを越えてワク。


陵王~りょうおう~

東見の長女。藍炎と蘭丸の姉。

剣術に優れる。無類の酒好き。

残念な美女。

ポピー

魔法のローブをかぶっているが、おそらく身長は真白と変わらないくらいだろう。魔女さんと二人暮らし。ちなみに身長はローブをいれて135cm

文太~ぶんた~

真白のお友達。術者見習い。

奥美(おうび)の巫女

故人。真白たちの母。

黒い龍

狭間に棲む黒い龍。烏に似た翼が生えている。怨念に近い想いを抱いて奥美の村を襲いはじめるが…。人間を襲う理由は食べるためなのか、恨んでいるのかは不明。真白が救いたいと願った人でもある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み