第39話 ドラゴンの少年の過去
文字数 1,123文字
夜中のこと、まだ幼い少年はベッドの中で
──時間がもうない……のか。
少年の寝汗で額に張り付いた金色の髪がうっとうしい。前髪を左手で途中までかきあげると、そのまま手をとめた。少年は額に手をあてながら考え込む。
──僕が見る夢は……。
この少年は不思議な力を持って生まれてしまった。望んでもないのに。隣からシーツの擦れる音がした。
「んん」
隣に寝ていた双子の兄が寝返りをうち、こちらに体を向ける。自分と同じ金色の髪が月明かりに反射してキラキラ輝く。兄の穏やかな寝顔を黙って少年は見つめた。自分もこんな顔をして寝ているのかもしれないと思うと同時に、ふと、寂しい気持ちが静かに胸に降りてきた。それは泣くほど激しいものではなく、ただ季節が過ぎるのを憂うようなもの。
──あとどれ位、一緒にいられるのかな?
物心ついた時からそうだった。視たくもない先のことまで視えてしまう。あがいてもあがいても結局ダメだった。少年はいつしかあきらめてしまった。人の命ですら仕方ないことだと。
──これは僕がドラゴンだからかな?
高い魔力を持って生まれたドラゴンだったからなのだろうか。少年はベッドから窓を見た。大きな窓に浮かぶ丸い月はまだ高い位置にあり、まだまだ夜が長いことを告げる。
「寝るぞ」
少年は小声で自分に言い聞かせた。足が冷たい。こんなに上半身は汗だくなのに、むしろ汗をかいたことで体が冷えたのか寒い。少年は横になると布団を肩までかけ、兄の方へ向きなおる。
「んん?」
少年はいつものように兄の脚に自分の足を押し付けた。兄は流石にうっすら目を開けたが、黙って弟に抱きつくとそのまま眠ってしまった。
──大好きだよ。ずっとそばにいれなくてごめんね。
少年は兄の寝顔を見つめた。兄はとても幸せそうな顔で眠っている。兄の口が小さく開いた。
「リュカ……」
兄の優しいボーイソプラノの声が心地よい。微笑みながら眠る自分とそっくりな顔をした兄。いつも一緒だった。これからもずっと一緒にいるはずだった。
──僕との楽しい夢を見てるのかな。
少年もまるで同じ夢を見ているかのように、優しく微笑む。大好きな兄を助けたい。ふと、少年は思い付いた。
狭間にいるという魔女と契約すれば、未来を変える事が出来るだろうか?この優しい兄だけでも救えるだろうか?
──どうやって魔女にお願いしようかな?
そんなことを思いながら少年は気付けば眠ってしまっていた。