第38話 襲撃③
文字数 7,825文字
研究所へと向かう橋での戦闘は激しさを増し、残っていた監視塔には火が放たれ、煙に巻かれたスーパービジョン戦闘員が次々に飛び降りる。
這々の体で監視塔から逃げおおせた彼らへと、GTC・ブラックドワーフの連合軍は容赦なく攻撃を仕掛けて捕縛していく。
「腰が引けてるわよ」
放たれた拳銃弾を〈鉄の書〉で弾き飛ばして突き進む飛鳥井。
何発撃っても全て本で弾かれるとあって逃げ腰になった敵へと飛鳥井は飛びかかり、地面に組み伏せて後頭部に〈鉄の書〉の一撃を見舞う。
「ひっ!?
殺したの!?」
目の前で行われる殺戮行為に怯えるあさひ。
飛鳥井は「手加減した」と言ってのけるが、あさひにはそれが信じられない。
明らかにやばい音がしたし、実際、殴られた敵はピクリとも動かなくなった。
きっと飛鳥井の言う”手加減”と、あさひの知っている”手加減”では言葉の意味が異なるのだろう。
意味の異なる同じ言葉など、学術分野ではよくある話だ。
「新手だ」
鴻巣が敵の増員を見て声をかける。
飛鳥井は咄嗟にあさひの首根っこを掴み自分の背中に隠すと、飛来した短機関銃の銃弾を〈鉄の書〉で弾く。
「遠いわね」
遠距離から放たれる短機関銃。
距離があるからほとんどは明後日の方向へ飛ぶため守り切れているが、手数が多く接近出来ない。
「撃ち返してよ!」
「あんたを守るので手一杯なのよ!」
飛鳥井は〈鉄の書〉とあさひで両手が埋まっていた。
「だったら離して!」
「危ないわよ」
「あんたに抱えられてる方が危ない!」
飛鳥井は「わたしの後ろから離れないで」と言いつけてあさひの身体を後方に投げる。
骨盤から地面に落ちたあさひは痛みに飛び上がり尻を押さえるが、銃声が轟く中、痛み如きに騒いではいられない。
咄嗟に先ほど倒れたスーパービジョン構成員の元へ転がり、地面に落ちていた拳銃を回収。
薬室に銃弾が装填されていることを確認し、飛鳥井の背後に隠れながら短機関銃を放ってくる敵へと向けて拳銃を構えた。
短くトリガーを引く。
あさひの放った拳銃弾は、30メートル離れた敵の腹部に命中。
「当たった! あ、でも効いてない!」
敵は防弾ベストを着用していた。
拳銃弾を当てても、多少ひるみはするが致命傷にはならない。
「あんた、銃を使えるの?」
「紛争地域で調査するには必修技能ですよ!
いいからあいつさっさとなんとかして!」
飛鳥井は〈鉄の書〉を軽く投げ上げて短機関銃の攻撃を防ぐと、右手で拳銃を抜き発砲。
大口径拳銃弾が防弾ベストを殴りつけ、衝撃で後ずさったところへと容赦なく更に拳銃弾を撃ち込む。
拳銃弾を胴体で4発受けた敵は、後退して遮蔽物の後ろへと隠れた。
「今のうちに前進するわよ」
「ついていけば良いんでしょ!」
戦線はGTC・ブラックドワーフ連合軍側が優勢だった。
飛鳥井はスモークグレネードを投げて視界を遮ると、それに乗じて前進。
あさひも取り残されたら命がないと、必死に飛鳥井の後ろに続いた。
スーパービジョンはコンクリートの構造物を盾にして、防衛ラインを構築する。
旧変電施設。現在は笹崎の研究所となっている建物の正門を守るように、短機関銃で武装した兵士達が固めている。
「膠着しそうね」
「こちらの役目は敵の戦力を引きつけること。
膠着しても問題ない」
合流した鴻巣が、輸送車両へとこちらも防衛陣地を構築するように指令を出す。
ここまで辿り着いた装甲輸送車両は3両。
それらを盾にして敵の短機関銃を防ぎながら反撃する。
「でも笹崎の身柄を回収するには、ここの連中にも大人しくなっていて貰わないと困るわ」
「一理あるが、突破するには火力が足りない」
相手は防衛用の構築物を供え、短機関銃で武装している。
拳銃だけでの突破は不可能だ。
飛鳥井は左目を押さえる。
もう一度〈砂の目〉を発動すれば、コンクリートの構築物と敵の武装を排除できる。
しかしまだ熱が引ききっていない。
過剰に能力を使えば眼窩を焼かれ、更には脳にまで熱が達する。
「何か〈ツール〉は?」
飛鳥井は〈砂の目〉の再使用は無理だと含みを持たせ、鴻巣へ問う。
「多少危険を伴うが、あることはある」
鴻巣は腰から下げていた缶を見せる。
見た目だけは普通の催涙弾だ。
「危険って、核爆発起こしたりしないでしょうね」
「その心配はない。
だが広範囲を加害する」
「ならそれ投げ込めば済む話ね」
「いや。ピンを抜いた瞬間に発動する。
猶予時間がない。
ここで抜けばこちらを巻き込んで終わりだ」
「だったらどうするのよ」
「相手側に持ち込んで、向こうでピンを抜く」
「ピンを抜いたら巻き込まれるでしょ」
「走って逃げる」
鴻巣はそれで問題は解決するかのように言うが、飛鳥井は顔をしかめた。
一体誰が敵地にこれを持ち込んで、ピンを抜き、走って逃げるのか。
敵地に爆弾を持ち込んだ人間を、相手は逃がしてくれるのか。
言いたいことは山ほどあるが、飛鳥井はそれを実行する手立てがあるのか問う。
「で、どうやって持ち込むの」
鴻巣は生真面目そうな表情のまま頷くと、電子端末を取り出して周囲の航空写真を表示した。
「記録によれば施設側面にも職員用の通路がある。
ここから潜入し、敵背後へと回り込んでこれを起爆する」
「やるとすれば少数精鋭ね。
あなたが1人でやってくれるの?」
「自分はここで指揮をとらなければならない。
飛鳥井さんなら上手くやれると信じている」
催涙弾を手渡される飛鳥井。
言い出しておいて他人にやらせるのかと、飛鳥井は鴻巣を睨む。
しかし飛鳥井にGTCやブラックドワーフの連中を指揮するのは難しい。
そういう教育は受けていないし、彼らも飛鳥井の命令に従って行動する訓練は受けていない。
「分かったわよ。
起爆したらどれくらい離れれば良いの?」
「とりあえず50メートル。
周囲の状況によってはそれ以上に加害範囲が広がる可能性もある。
様子を見ながら全力で逃げて」
「了解。
とにかく全力で逃げるわ」
飛鳥井は催涙弾を受け取ると、あさひへと視線を向ける。
視線の意味をあさひは理解したが、それはあまりに危険だと拒絶を表情で伝え、鴻巣の背後に隠れようとする。
だが飛鳥井に手首を掴まれて無理矢理引っ張り出される。
「嫌だ!
絶対危ない奴!
なんでボクがついていかないといけないのさ!」
「わたしの側が一番安全よ」
「爆弾抱えて特攻する人の側が安全なわけないでしょ!」
「分かった。
なら神柱だけこっちに渡して」
「はあ!?
何で小谷川家の家宝を渡さないといけないの!?」
「嫌ならついてきなさい」
あさひは脅されるようにして飛鳥井と同行することとなった。
鴻巣が2人へと大きめのレインコートを手渡す。
「着ていれば見つかりづらくなる。
あまり過信はしないで」
「了解。こっちも突破されたりしないでね」
「問題ない。
防衛用の〈ツール〉は揃っている」
飛鳥井は鴻巣に見送られて、受け取ったレインコートを広げるとあさひを引き寄せて2人の身体が収まるように羽織った。
半透明のレインコートは周囲の景色と一体化し、内側にいる2人の姿を曖昧にする。
飛鳥井とあさひは施設側面へと回る。
職員用の出入り口が見えたところで草陰に隠れて様子をうかがう。
「誰も居ない?」
「正面で手一杯なのかしら。
だからって監視カメラもなしってことはないと思うけど」
飛鳥井は目を凝らす。
〈砂の目〉の熱もあって若干ぼやけた視界では、細かい点まで見られない。
「行くなら今がチャンスでは?」
「そうね。じっとしていても仕方がないし、潜入しましょう」
2人はレインコートに隠れたまま職員用出入り口へ。
扉が開きっぱなしの出入り口を越えたところで、飛鳥井の足が何かに触れた。
同時に近くから鈴の音が響く。
「また古典的な」
足下に張られた糸。
飛鳥井が糸に触れたことで、糸の先につけられた鈴が音を鳴らしたのだ。
「人感センサじゃダメだったんですかね?」
「バレた以上走るわよ」
飛鳥井はレインコートを脱ぎ捨て、あさひの身体を抱える。
近くにあった警備用の小屋からスーパービジョン構成員と思わしき人物が飛び出してきていた。
飛鳥井は〈鉄の書〉を右手に持ち、強行突破の構えをとる。
だがそれを制するようにあさひが叫んだ。
「神の遣い!」
スーパービジョンの構成員。
小柄で、フード付きの薄手の上着を羽織った女性。
彼女の左肩の上には、身長30センチくらいの神の遣いが浮いていた。
金色の髪をした、羊の角のようなものを頭から生やした姿。それは目を閉じたままただただ浮遊していた。
敵は右手に持った木の杖のような物を前に突き出した。
「突破する!」
「待って! あれ、スピンドル――」
繊維から糸を紡ぐための棒。
スピンドルが振るわれると同時に、無数の糸が空中を舞った。
それを振り払おうと飛鳥井は〈鉄の書〉を叩きつけた。
渾身の力で振り下ろした〈鉄の書〉は無数の糸に絡め取られて空中で静止する。
飛鳥井は〈鉄の書〉を引き抜こうとするが、既に糸は腕にまで絡まっていて動きを阻害する。
そして敵がスピンドルを掲げると連動して糸が巻き上げられ、飛鳥井の腕もつり上げられた。
「ちょっと!
何ししてるのさ!」
咄嗟にあさひはカバンからカッターナイフを取り出して適当にぶん投げる。
イナンナの加護によって収穫の特性が付与されたカッターナイフは、飛鳥井の腕をつり上げていた糸の束を一瞬で切断する。
糸から解放された飛鳥井は後退して相手との距離をとりながら、脱臼した右肩を左手で殴りつけて無理矢理治す。
「糸見えてる?」
あさひは飛鳥井の痛々しい右腕をちらと見ながら尋ねる。
「見えているわ。
ただちょっと距離感がつかめてないだけ」
飛鳥井の左目は〈砂の目〉。〈ツール〉化した義眼だ。
片目だけの彼女は、糸のような細い物体との距離感を上手くつかめていない。
「そっちこそ〈ドール〉はしっかり見えてる?」
「見えてるよ。
肩の上にいる」
「依り代は?」
「そこまでは分からない。
けど、スピンドルは違うと思う。
もっと古い物のはず」
2人が話している間にも、相手はスピンドルを回転させて、何もないところから細く細く糸をよっていく。
先ほどの糸よりもずっと細い、線のような糸がスピンドルから方々へ舞っていく。
「分かっているとは思うけど、迂闊に触ったら切れるからね」
あさひが忠告すると飛鳥井は「分かってる」と素っ気なく返す。
それから飛鳥井は言った。
「糸の方、少しだけで良いからなんとかして。
間合いに入れさえすればあの棒はたたき折れるわ」
「え? 何でボクが糸をなんとか出来ると思ってるの?」
「なんとかしてね。
行くわよ」
「人の話を聞いてよ!!」
飛鳥井が走り出すとあさひも慌ててそれに続く。
細い糸は相手の周囲を囲うように展開されている。
糸をなんとかしなければ近づけない。
飛鳥井が拳銃を発砲。
糸は銃弾を切断し、そこまでいかなくとも触れた弾の軌道を逸らしてしまう。
銃が効かないと分かると、飛鳥井は拳銃をしまって〈鉄の書〉で舞寄ってくる糸を払う。
その間にイナンナにカッターナイフの替え刃へと加護を付与させたあさひ。
どんな細い麦も確実に切断できるようにと注文をつけたそれらを適当にぶん投げた。
空中を舞ったカッターナイフの刃は、回転しながら糸を切り刻んでいく。
「今だ!」
あさひはカバンの横に刺してあったタンブラーを抜いて投げつけた。
上手いとは言えない投擲で、変な回転のかかったタンブラーは歪な放物線を描きながらも相手の元へ。
だがあさひ渾身の投擲は、空中に残っていた糸によって難なく防がれた。
空中で真っ二つに切断されるタンブラー。
「かかった!」
それは体積と重量を無視していくらでも液体を収納できるタンブラーだった。
切断されたことで〈ツール〉としての特性を失うと、内側に収納されていた大量の水をぶちまける。
こんなこともあろうかと、川の水を貯め込んでおいたのだ。
水の塊に押し潰されてその場に倒れる敵。
飛鳥井も突然の水流に足を取られ進めない。
飛鳥井が間合いに入るより先に、敵は取り落としたスピンドルを手にして立ち上がった。
手の中でスピンドルを回転させて糸を紡ごうとする。
だがスピンドルが糸を紡ぐことはなかった。
水をかぶってしまったスピンドルは、いくら回転させても細い糸をよれない。
ゴワゴワとした繊維の塊が産み出されるだけで、それは飛鳥井の突撃を止めるのに何の役割も果たせなかった。
「これで終わりよ」
間合い深くに踏み込んだ飛鳥井。
右手に持った〈鉄の書〉が振り下ろされ、スピンドルが砕かれる。
「あなたの負けよ。
観念して――」
「神の遣いが上着に入った!」
あさひの叫び声に、飛鳥井は〈鉄の書〉を相手に向けて叩きつけるように振り下ろした。
その瞬間、敵が身につけていたフード付きの上着が膨張した。
それは飛鳥井に覆い被さり纏わり付くと、彼女の動きを封じ込めてしまう。
「ちょ、ちょっと!
抵抗しないで!」
拳銃を構えたまま敵に詰め寄るあさひ。
しかし相手はその要望に応じることはなかった。
上着が脱げて露わになった顔は、釣り上がった瞳で侮蔑するようにあさひの姿を睨んでいる。
「動かないで!」
再度の忠告も無視され、相手はポケットに手を入れるとそこから取り出したボビンを投げつけた。
糸の巻かれたボビンへと、羊の角を持つ神の遣いが吸い込まれていく。
「イナンナ!
あれなんとか出来ない!?」
『承りました』
慌てて問うと、イナンナはその意を受けてボビンへと邁進。
吸い込まれていったはずの敵の神の遣いの首根っこを掴み引き釣り出すと、そのままグーパンチで殴った。
イナンナの一撃を顔面で受けた神の遣いは、羊の角の片方をへし折られ、地面へと勢いよく叩きつけられる。
『このような形でよろしいでしょうかしらん?』
「も、問題なし。
――え? イナンナ、農耕の神の遣いだよね……?
なんでそんなに強いの?」
『わたくしはあさひと信仰の契約を結んでおります故、巫女を持たぬ神の遣いに負ける道理がございませぬ』
「そっか。そうだよね。とにかく良し。
観念して。動かないでね。
飛鳥井さんも早く起きて」
神の遣いを無力化された相手は、拳銃をつきつけられた状態では抵抗できず、あさひの言うままに動きを止めた。
その間に飛鳥井は膨張した上着から抜け出した。
「全く、厄介な相手だったわ」
飛鳥井は女性構成員を後ろ手に縛り上げる。
「依り代は?」
「うーん、多分これ。
時代区分的に間違いないと思う。持ってみて」
あさひは相手の手首に装着されていた石製の腕輪を丁寧に外すと飛鳥井に渡した。
飛鳥井が腕輪を手にすると、イナンナの姿がこれまで何もなかった空間に浮かび上がる。
「見えるわ。これで間違いないわね。
――これの〈ドール〉は?」
「そこで寝てる」
あさひが指さした先の地面には、目を回した状態の神の遣いが居た。
それは顔面をへこませて、羊の角の片方を折られた状態で倒れている。
「これじゃあ〈ツール〉は作れないわね」
「それより早く行かないと」
「分かってる。
敵陣に突入して、これのピンを抜かないと。
事前に逃走経路を確認しておきたいから、どこかの建物から敵陣地の様子を観測したいわ」
飛鳥井は縛り上げたスーパービジョンの女性構成員の口を塞ぐと、警備小屋の中に適当に転がした。
あさひは地面に落ちていたボビンを拾い上げた。
それから催涙弾を渡すように手招きした。
「どうするつもり?」
「敵陣に突入じゃなくてさ、これだとダメなの?」
催涙弾のピンに糸を結んで、勢いをつけて引っ張ればピンが抜けそうだと確認したあさひ。
それを見て飛鳥井は大きく頷く。
「流石、頭良いわね」
「え?
飛鳥井さんと鴻巣さんが脳みそ筋に――いえ何でもないです。
とにかく側面からこれ投げ込んで、ピン抜いてしまいましょう。
ボクはもうこれ以上危ないのは嫌ですからね」
飛鳥井とあさひは警備小屋の先へ進むと、敵陣を目視確認。
鴻巣へと短く一報を入れて、催涙弾を投げ込んだ。
飛鳥井によって敵陣中央へと投げ込まれた催涙弾。
あさひは伸びきった糸を勢いつけて引っ張って、催涙弾のピンを抜き取る。
その瞬間、催涙弾は周囲の物体を吸い込み始める。
始めは砂や石。
周囲の構造物はもちろん、人間もその吸引には耐えられる程度だった。
しかし物を吸い込めば吸い込むほどに、吸引力は加速度的に大きくなり、やがて武器弾薬や、人ですら吸い込み始める。
その吸引力は留まることを知らず、大型のコンクリート製構築物をも吸い込み始めた。
催涙弾があった場所を中心に真っ黒な球体が生まれ、それが次々にあらゆる物を吸い込んでいく。
「一応確認するけど吸い込まれた物はどうなるの?」
イヤホンを指で押さえて通話に切り替えた飛鳥井が問うと、鴻巣の返信が届く。
『しばらくすると吐き出される。
吸引によって原型が崩れることはないが、吸い込まれた物質が多いほど吐き出される際の勢いが強くなる。
かなりの重量物を呑み込んでいるので、十分に距離をとっておいた方が賢明だろう』
「了解。
次からそういうの最初に言ってね」
あさひの手を引いて待避を始める飛鳥井。建物の裏手に身体を隠し、吸い込まれないように縁をしっかりと掴む。
その直後、空中に浮かんでいた闇が爆ぜた。
吸い込んだあらゆる物を放射状に一斉に解放する。
それらは周囲に勢いよく射出され、コンクリートの塊がまるで発泡スチロールみたいに転げ回り、人間も人形のように地面を転がる。
小さな石や銃弾は建物の壁を打ち砕く。
「あっぶな!
あんな危険物直接起爆させるつもりだったの!?」
「無事だったんだから良いでしょ」
飛鳥井はあさひを適当にあしらい、建物を壁にして爆発をやり過ごす。
爆発の影響が収まると、鴻巣指揮の下にGTC・ブラックドワーフの連合軍は正面突破をかけて、陣地を破壊されて地面に投げ出されたスーパービジョンの構成員を捕縛していく。
「ひとまずこっちのやるべきことは終わったわ」
「じゃあボクはもう帰っていい?」
「ダメよ。
笹崎の〈ドール〉を確認する役目が残ってるでしょ」
「その腕輪あるからいいでしょ。
そもそも、ボクじゃなくて淵沢さんにやらせれば良くない?」
「あの子が信頼できるならそうね」
出来ないの? とあさひは眉をひそめたが、飛鳥井は回答しようとしなかった。
その代わりに、飛鳥井はあさひへと間違いのない事実を突きつける。
「大体、こんな山奥から1人で帰れないわよ」
「あ、そうだった。車両1台貸してよ」
バカを言うなと飛鳥井は要求を突っぱねて、スーパービジョン構成員の捕縛へ手を貸すために立ち上がって移動開始した。
こんな場所で1人にされては困ると、あさひも慌ててその後を追う。
スーパービジョンの秘密研究所正面入り口は、GTCとブラックドワーフの連合軍によって制圧された。
◇ ◇ ◇
ツール発見報告書
管理番号:0805(GTC管理)
名称:LD0805
発見者:淵沢夕陽
影響:S
保管:C
特性:蓋を開けると周囲の物を吸い込み、一定時間後に吐き出す。
吸い込んだ物質の体積・質量に応じて吐き出すエネルギーが変化する。