黒髪の青年

文字数 1,518文字

 二人が希望を失いかけた三日目の夜、家に一人の訪問者が現れた。その者は暗闇に紛れるような黒い服を身に纏い、靴までもが黒かった。また、両手には黒い革手袋が嵌められ、髪の色も黒だった。
 
 その者の左手の指には、手袋の上から大きな金属製の指輪が嵌められ、それは甲側に黒ずんだ棘が付いている。また、右脚には細いベルトが巻かれ、そこには鞘に納められたダガーが差し込まれていた。その者が持つ武器は他にも在り、腰に巻かれたホルスターには、弾の込められた拳銃が入れられている。
 
 その者は、暗がりの中で少女らの母親と睨み合っており、その右手を何時でも武器の取れる位置に置いていた。一方、母親は突然の訪問者に罵声を浴びせ、髪を振り乱しながらその者を責め立てた。しかし、訪問者に戸惑う様子は無く、一つの質問を母親に投げかける。
 
「子供は何処に居る」
 訪問者の問いに母親は答えず、ただただ意味の無い言葉を繰り返していた。その様子を見た訪問者は溜め息を吐き、目を細めて口調を荒げる。
 
「俺は気が短い。出来れば、仕事を早く済ませたい」
 訪問者は、そう言うと子供を探して家の中を歩き回った。彼の背後からは奇声が聞こえたが、それが近付いてこないと知ると怪しげな場所を一つ一つ調べ始めた。暫くして、彼は椅子などが積み上げられた場所を見つけ、苛立った様子で舌打ちをする。
 
「面倒なことしやがって」
 訪問者は、そう言うと乱暴に詰まれた椅子や机を後方に投げた。その音に気付いた家主と言えば、訳の分からない言葉を発しながら訪問者に近付いていく。一方、訪問者は母親に椅子を投げつけて牽制し、バスルームのドアを開けた。
 
 すると、バスルームの中には物音に脅えて蹲る姉妹の姿が在り、それを見た訪問者はゆっくり息を吐き出した。その後、訪問者は姉の脚や妹の顔の状態に気付き、眉間に皺を寄せながら母親のいる方に向き直る。
 
「思い知れ」
 言いながら拳銃を取り出すと、訪問者は母親の左脛を打ち抜いた。脚を撃たれたものは痛みに声を上げてしゃがみ込み、恨みがましそうに訪問者の目を見据える。
 
「は? 小さな子供に

のは誰?」
 訪問者は、そう言うと拳銃を元の場所に戻し、代わりにダガーを手に取った。そして、自らを睨み付ける女の頬を切りつけると、間髪を入れることなく鳩尾に左の拳を叩き込む。
 
「アンタみたいなババアと違って、子供には未来が有る。それを、あんな風にしちまって」
 吐き捨てるように言うと、訪問者は母親の首筋にダガーを押し付けた。
 

死なせない。それが、俺らのやり方だ」
 訪問者は、そう言うとダガーを振り上げてから床に突き刺し、左手で母親の頭を勢い良く殴った。その衝撃で母親は気を失い、訪問者はボトムスのポケットから手錠を取り出す。彼は、手錠を母親の手を背中に回した状態で嵌め、部屋の隅に転がした。そして、先ほどまでバスルームの前に在った家具をその体の周りに置き、容易には脱出出来ないように固めていく。
 
 その後、彼はバスルームに向かって行き、しゃがみ込んで子供達と目線を合わせた。

「さ、行くよ」
 姉妹は、見知らぬ男の姿に脅え、姉は妹を庇うように腕を横に伸ばした。その様子を見た訪問者は溜め息を吐き、懐から液体入りの小瓶を取りだす。男は、小瓶の蓋を開けると息を止め、瓶の開いた方を姉妹に向けた。すると、姉妹は静かに眠りに落ち、それを見た男は瓶を仕舞って子供達を抱き上げた。彼は、姉妹を抱き上げたままバスルームを去り、そのまま家の外へ向かって行く。
 
 外へ出た男は夜空を見上げ、大きく息を吸い込んだ。そして、姉妹の顔を優しく見つめると、二人を抱えたまま夜の闇に溶けていく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

???
内容の都合上、名無し状態。

顔に火傷の痕があり、基本的に隠している&話し方に難有りでコミュニケーション力は残念め。
姉とは共依存状態。

シスターアンナ
主人公の姉。
ある事情から左足が悪い。
料理は上手いので飢えた子供を餌付け三昧。

トマス神父
年齢不詳の銀髪神父。
何を考えているのか分からない笑みを浮かべつつ教会のあれこれや孤児院のあれこれを仕切る。
優しそうでいて怒ると怖い系の人。

シュバルツ
主人公の緩い先輩。
本名は覚えていないので実質偽名。
見た目は華奢な青年だが、喧嘩するとそれなりに強い。
哀れな子羊を演じられる高遠系青年。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み