動と静と
文字数 1,707文字
陽の良く当たる場所に居た。彼女は洗濯物入りの籠を持ちながら歩いており、その先には枝から枝に渡されたロープが有る。
籠をロープの下に置くと、アンナは籠に入れられた衣服を干していった。アンナが数枚の衣服を干し終えた頃、黒い服を着た者は彼女の近くまで到達する。
黒衣の者は、アンナの背後から近付いており、その近くに他の者は見当たらなかった。また、そこへ向かうまでの道は丁寧に踏み固められており、雑草すら生えていない。しかし、その周囲には、様々な色をした花が咲き誇っていた。
黒衣の者は、アンナの居る数歩手前まで来た時、小さく息を吸い込んだ。そして、アンナが服を干し終えた時を見計らって口を開く。
「姉さん」
自らを呼ぶ言葉に気付いたアンナは、声のした方を振り返り笑顔を浮かべる。一方、黒い服を纏った者は、布越しに頬を掻きながら言葉を続けた。
「今日って、忙しい?」
アンナはゆっくり首を横に振り、腰の高さで手を合わせて口を開く。
「いいえ。今日は、急いでやらなければならないことは無いの。洗濯物を干し終えたら時間が有るわ」
アンナの返答を聞いた者はやや目を広げ、干されている衣服に目線を移した。
「じゃあ、お見舞い付き合って。さっき、姉さんと一緒に行ってみたら……って言われた」
その提案を聞いたアンナは頷き、軽く首を傾げて微笑んだ。
「良いわよ。籠を片付けてくるから、ここで待っていてね」
アンナは空になった籠を持ち上げ、彼女の言葉を聞いた者は無言で頷いた。その後、アンナは小道を進んで行き、黒衣の者は姉の背中を静かに見送る。
----------
アンナ達は、病院の受付に来ていた。その受付は落ち着いた色の照明を使っており、病室の在る方からは消毒液の匂いが漂ってきている。
アンナは、受付に居る職員に訪問理由を告げると、黒衣の者と共に病室へ向かい始めた。目的の病室は受付から離れた位置に有り、異様な程に静まり返っている。
二人が目的とする病室へ入ると、そこには四つのベッドが置かれていた。そのうち左手前の一つは開いていたが、他のベッドには子供が寝かされている。
ベッドの横には、個人の荷物を入れる棚が用意され、そのうちの一つに黒い外套が置かれていた。外套の置かれた棚は入り口から向かって右手前に有り、それに気付いた者は棚へ近付いて行く。
黒衣の者は、外套を手に取るとそれを身に着け、顔だけ動かしてアンナの目を見た。
「帰ろう。皆、寝てる」
その提案にアンナは首を傾げ、ベッドに横たわる子供を見つめる。すると、子供は寝息を立てており、起こすことは憚られた。
「そうね。何か有ったら神父様に連絡が行くでしょうし……今日は帰りましょう」
アンナは、そう言うと静かに病室を出る。黒い外套を着た者は彼女の後を追い、足音をたてないように病室を出た。その後、二人は病院の廊下をゆっくり歩き、数十歩程進んだ所で顔を見合わせる。
「明日、花を摘んでから来ましょうか。花瓶は、神父様に言えば貸して頂けるでしょう」
アンナはそう言うと首を傾げ、彼女の提案を聞いた者は天井を見上げた。
「姉さんが、そうしたいなら」
黒衣の者は、そう言うとアンナの目を見つめた。
「じゃ、決まりね」
アンナは黒い服を着た者の頭を撫でた。頭を撫でられた者は照れくさそうに顔を背け、微かに瞬きの回数を増やす。
「子供扱い止めて。恥ずかしい」
顔を背けたまま呟くと、アンナの手を掴んで頭から離す。一方、アンナと言えば、不思議そうな表情を浮かべて口を開いた。
「あら、私からしたらまだまだ子供よ? 好き嫌いが治らないし、夜は」
「分かったから。それ以上言わないで。誰かに聞かれたら恥ずかしい」
アンナの言葉を遮るように言うと、その者は懇願するような眼差しで姉を見つめた。その目線に気付いたアンナは、何処か安心した様に息を吐く。
「じゃあ、まずは好き嫌いを無くさないとね」
そう話すと、アンナは腰の後ろで手を組み僅かに歩く速度を上げた。一方、アンナの台詞を聞いた者は低い声を漏らし、歩く速度を彼女に合わせる。
その後、二人は会話することなく病院を去り、教会のある方へ向かった。
籠をロープの下に置くと、アンナは籠に入れられた衣服を干していった。アンナが数枚の衣服を干し終えた頃、黒い服を着た者は彼女の近くまで到達する。
黒衣の者は、アンナの背後から近付いており、その近くに他の者は見当たらなかった。また、そこへ向かうまでの道は丁寧に踏み固められており、雑草すら生えていない。しかし、その周囲には、様々な色をした花が咲き誇っていた。
黒衣の者は、アンナの居る数歩手前まで来た時、小さく息を吸い込んだ。そして、アンナが服を干し終えた時を見計らって口を開く。
「姉さん」
自らを呼ぶ言葉に気付いたアンナは、声のした方を振り返り笑顔を浮かべる。一方、黒い服を纏った者は、布越しに頬を掻きながら言葉を続けた。
「今日って、忙しい?」
アンナはゆっくり首を横に振り、腰の高さで手を合わせて口を開く。
「いいえ。今日は、急いでやらなければならないことは無いの。洗濯物を干し終えたら時間が有るわ」
アンナの返答を聞いた者はやや目を広げ、干されている衣服に目線を移した。
「じゃあ、お見舞い付き合って。さっき、姉さんと一緒に行ってみたら……って言われた」
その提案を聞いたアンナは頷き、軽く首を傾げて微笑んだ。
「良いわよ。籠を片付けてくるから、ここで待っていてね」
アンナは空になった籠を持ち上げ、彼女の言葉を聞いた者は無言で頷いた。その後、アンナは小道を進んで行き、黒衣の者は姉の背中を静かに見送る。
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アンナ達は、病院の受付に来ていた。その受付は落ち着いた色の照明を使っており、病室の在る方からは消毒液の匂いが漂ってきている。
アンナは、受付に居る職員に訪問理由を告げると、黒衣の者と共に病室へ向かい始めた。目的の病室は受付から離れた位置に有り、異様な程に静まり返っている。
二人が目的とする病室へ入ると、そこには四つのベッドが置かれていた。そのうち左手前の一つは開いていたが、他のベッドには子供が寝かされている。
ベッドの横には、個人の荷物を入れる棚が用意され、そのうちの一つに黒い外套が置かれていた。外套の置かれた棚は入り口から向かって右手前に有り、それに気付いた者は棚へ近付いて行く。
黒衣の者は、外套を手に取るとそれを身に着け、顔だけ動かしてアンナの目を見た。
「帰ろう。皆、寝てる」
その提案にアンナは首を傾げ、ベッドに横たわる子供を見つめる。すると、子供は寝息を立てており、起こすことは憚られた。
「そうね。何か有ったら神父様に連絡が行くでしょうし……今日は帰りましょう」
アンナは、そう言うと静かに病室を出る。黒い外套を着た者は彼女の後を追い、足音をたてないように病室を出た。その後、二人は病院の廊下をゆっくり歩き、数十歩程進んだ所で顔を見合わせる。
「明日、花を摘んでから来ましょうか。花瓶は、神父様に言えば貸して頂けるでしょう」
アンナはそう言うと首を傾げ、彼女の提案を聞いた者は天井を見上げた。
「姉さんが、そうしたいなら」
黒衣の者は、そう言うとアンナの目を見つめた。
「じゃ、決まりね」
アンナは黒い服を着た者の頭を撫でた。頭を撫でられた者は照れくさそうに顔を背け、微かに瞬きの回数を増やす。
「子供扱い止めて。恥ずかしい」
顔を背けたまま呟くと、アンナの手を掴んで頭から離す。一方、アンナと言えば、不思議そうな表情を浮かべて口を開いた。
「あら、私からしたらまだまだ子供よ? 好き嫌いが治らないし、夜は」
「分かったから。それ以上言わないで。誰かに聞かれたら恥ずかしい」
アンナの言葉を遮るように言うと、その者は懇願するような眼差しで姉を見つめた。その目線に気付いたアンナは、何処か安心した様に息を吐く。
「じゃあ、まずは好き嫌いを無くさないとね」
そう話すと、アンナは腰の後ろで手を組み僅かに歩く速度を上げた。一方、アンナの台詞を聞いた者は低い声を漏らし、歩く速度を彼女に合わせる。
その後、二人は会話することなく病院を去り、教会のある方へ向かった。