急転

文字数 2,689文字

「シュバルツさん。家族って、何なのでしょうね」
 突然の問いに青年は驚き、思わず後方を振り返った。そのせいか車の進行方向は揺らいでしまい、シュバルツは直ぐに目線を前方へ移してハンドルを操作する。
「何なんだろうね? 正直なところ、俺が答えるのは難しいと思うよ?」
 そう返すと青年は苦笑し、ゆっくり息を吐き出した。
「俺さ、小さい頃に拾われて、それからずっと孤児院で暮らしてきたから……期待に沿えるような答えは、出来ないと思うんだよね」
 シュバルツは、そう言ったところで目を細め、何度か頭を横に振った。
「ただ、君には妹が居る。それで、仲が良いなら十分じゃないかって、俺は思うよ?」
 そこまで話したところで、シュバルツは車を路肩に停めた。そして、彼は座席に座ったまま上体を捻ると、暖かな眼差しでアンナの顔を見つめる。
「だからさ、悲観的になることは」
「でも!」
 アンナの声にシュバルツは目を丸くし、話すことを止めた。一方、アンナは目を伏せて手を振るわせ、小さな声で話し始める。
「でも……その妹が、本当の妹じゃなかったら」
 アンナの話を聞いた者は眉間に皺を寄せ、無言のまま話の続きを待った。
「あの子が、ああなった原因は分かっています。でも、その引き金となった者は、もう」
 アンナは、そう言ったところで唇を噛み、彼女の様子に気付いた青年は首を傾げた。
「だから、昔の妹に戻って欲しい?」
 シュバルツの問いを聞いたアンナは顔を上げ、潤んだ瞳で青年の目を見つめる。アンナに見つめられた者と言えば微笑し、それから落ち着いた声で言葉を続けた。
「ま、俺はあの子がどういう性格だったかは、良く知らないんだけどね」
 シュバルツはそう言うと苦笑し、気まずそうに目線を逸らした。一方、アンナは彼の意外な発言に驚いた様子をみせ、静かに返す言葉を模索する。
「あの子は……無邪気で明るくて、とてもパパのことが好きでした」
 アンナは、そう言ったところで苦笑し、目を細めて大きな溜め息を吐く。
「友達も多くて、人気者で……私が羨ましく思ったことなんて、何度もありました」
 そう言ってアンナは目を瞑り、両手を強く握りしめる。彼女の手は、力を込めているせいか震えており、それに連動して腕までもが震えていた。
「それなのに……今のあの子は、私以外の人と話をしようともしない。外で友達と遊ぶのが好きな子だったのに、必要が無ければ外に出ることも無くなりました」
 この時、アンナの話を聞いている者は顔を強張らせ、無言で彼女の話を聞き続けた。
「それが、心を守る為に起きたことだとは聞きましたし、仕方のないことだと理解はしています。でも、本当の妹は」
 アンナは、そこまで話したところで言葉を詰まらせ、両手で逆側の肘を強く掴む。しかし、そうしても手の震えは収まらず、アンナは苦しそうに胸元を押さえた。その後、車内の会話は途切れ、青年が口を開くまで沈黙は続いた。
「冷たい飲み物でも買ってくるよ。それで頭が冷えれば、違う考えが浮かぶかも知れないし」
 そう言うとシュバルツは笑顔を作り、アンナの目を真っ直ぐに見つめた。彼に見つめられたアンナと言えば小さく頷き、その仕草を見た青年は車を降りる。
 車を降りてから十数分後、青年は二つの紙コップを持って戻ってきた。彼は、その一つを運転席のカップ受けに入れ、残った方をアンナへ手渡す。
「はい、産地直送牛乳を使用したミルクティー。お店の一押しだってさ」
 そう伝えると青年は笑顔を浮かべ、彼の台詞を聞いた者は礼を述べる。その後、アンナは渡された飲み物を一口飲み、紙コップを太腿の辺りまで下げた。
「落ち着いた?」
 青年の問いを聞いたアンナは頷き、微笑みながら口を開く。
「はい。おかげ様で」
 そう伝えると、アンナは手に持った紙コップを静かに見下ろす。
「美味しいですね、これ。ミルクの味が濃いのに、紅茶の味を殺していない」
 そう言ってアンナは顔を上げ、青年の顔を真っ直ぐに見つめた。対するシュバルツはホルダーに入れていた紙コップを手に取り、そこに注がれた飲料を一口飲む。
「言われてみればそうかも。凄いね、俺一人だったら気にしないで飲み干してたよ」
 青年は、そう返すと苦笑し、ミルクティーをもう一口飲む。彼の話を聞いた者と言えば首を傾げ、不思議そうに話し始めた。
「凄いですか? ただ、紅茶を良く飲んでいるから気付いただけで」
 その話を聞いた青年はコップをカップ受けに戻し、笑顔を浮かべてアンナの目を見つめる。
「うん。俺は、旨いとか不味いとかしか考えないもん」
 そう伝えると、シュバルツは気恥ずかしそうに苦笑し、細く息を吐き出した。
「飲み終わったら帰ろうか。あまり遅いと、心配させちゃうし」
 そう問うと、シュバルツはアンナの目を見つめて首を傾げる。彼の話を聞いた者と言えば小さく頷き、コップに注がれた茶を一口飲んだ。
「そうですね。出発してから結構時間が経っていますし……外出の理由を知っている司祭様は、特に心配をされているでしょうね」
 そう言うと、アンナは目を伏せて溜め息を吐いた。一方、彼女の様子を見た青年は自分のコップを手に取り、そこに残っていた飲料を飲み干す。
 その後、アンナもコップ内の紅茶を飲み干し、シュバルツは車を走らせ始めた。それから二十分程が経った時、青年は車を教会の近くに停め、後部座席を振り返って笑顔を浮かべる。
「お疲れ様。教会に到着したよ」
 言って、青年は窓の外に目線を向ける。この時、彼の目線の先には教会の入り口が在り、それを見たアンナはシュバルツに対して礼を述べた。
「どう致しまして。俺は、これから車を移動させなきゃだけど、一人で行けそう?」
 そう問うと、青年はアンナの目を真っ直ぐに見つめる。対するアンナは小さく頷き、微笑みながら話し始めた。
「はい。教会は目の前ですし、大丈夫です」
 そう言って、アンナは軽く首を傾げた。彼女の話を聞いたシュバルツは無言で頷き、彼の仕草を見た者は車を降りる。

 降車後、アンナは運転席に座る青年へ頭を下げ、ゆっくり教会へ向かって行った。この際、シュバルツはアンナが教会に入ったことを確認し、その数分後に車を走らせ始める。シュバルツと分かれたアンナは教会内を静かに歩き、神父が居るだろう部屋へ向かっていった。アンナは教会の廊下をゆっくり歩いたが、不思議と誰とも行き会わなかった。そのせいか、彼女はどこか寂しそうに目を伏せ、目的とする部屋のドアを数回叩く。
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登場人物紹介

???
内容の都合上、名無し状態。

顔に火傷の痕があり、基本的に隠している&話し方に難有りでコミュニケーション力は残念め。
姉とは共依存状態。

シスターアンナ
主人公の姉。
ある事情から左足が悪い。
料理は上手いので飢えた子供を餌付け三昧。

トマス神父
年齢不詳の銀髪神父。
何を考えているのか分からない笑みを浮かべつつ教会のあれこれや孤児院のあれこれを仕切る。
優しそうでいて怒ると怖い系の人。

シュバルツ
主人公の緩い先輩。
本名は覚えていないので実質偽名。
見た目は華奢な青年だが、喧嘩するとそれなりに強い。
哀れな子羊を演じられる高遠系青年。

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