エピローグ
文字数 1,785文字
海岸沿いの道を二人の女性が歩いていた。そのうち一人は腰まで伸びた金髪を靡かせており、その肌は驚くほどに白い。また、青い瞳は隣を歩く女性を何度も見つめており、その口角は緩んでいる。
一方、その隣を歩く女性の髪は明るい栗色をしており、瞳は碧色をしていた。彼女の髪は肩ほどの長さだったが、良く手入れをされているのか陽光によって輝いている。
「ねえ、セーラ。やっと、一緒にお出かけ出来たわね」
そう話す女性の手には大きめのバスケットが握られ、それは彼女が歩く度に揺れている。そして、彼女は道端に木製の長椅子を見つけるなり籠をその中程に置き、共に歩む者の目を見つめた。
「ここで食事をしましょう? 他に、座れそうな場所があるかは分からないし」
すると、話し掛けられた者は籠の右側に座り、それを見た者は椅子の開いている場所へ腰を下ろす。
「色々、作ってきたのよ? 途中で崩れるのも嫌だし、手の込んだ料理は無いのだけれど」
女性は、そう言うと籠の蓋を開け、その中を覗き込む。籠の中には、薄茶色のパンを使ったサンドイッチやパンケーキが入っており、そのおかずとしてソーセージなども入れられていた。
「野菜は少なめになっちゃったけど……こういう時位は良いわよね」
女性は、そう言うと適当にサンドイッチを手に取り、隣に座る者へと渡す。すると、セーラはそれを受け取って口に運び、何度か咀嚼した後で嚥下した。
「他にもまだ有るから、遠慮しないで食べてね。飲み物も持ってきたから」
言って、女性は籠から水筒を取り出してみせる。そして、彼女はそれを軽く揺らすと、椅子の上に立てて置いた。
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教会の一室に二人の男性が居た。そのうち一人は二十代の青年で、もう一人は彼の倍ほどの年を取っている。また、彼らは向かい合う形でソファーに腰を下ろしており、間に有るテーブルには何も置かれていなかった。
「ねえ、神父様。あれはあれで幸せなのかなあ?」
青年は、そう問うと神父の目を見つめ、小さく首を傾げてみせる。対する神父はにこやかに微笑み、青年の疑問に答え始めた。
「幸せと言うのは、他人には分からないものも有るのですよ。貴方から見て幸せで無くとも、二人が笑顔でいるのなら幸せなのではないですか?」
そう問うと、神父は首を傾げて青年の反応を待った。対する青年は暫く考えた後で頭を掻き、腑に落ちない様子で話し始める。
「そうかなあ……だって、あの子達は前からあんな感じだったし」
青年は、そう言うと細く息を吐き出した。一方、彼の台詞を聞いた者は顎に手を当て、少しの間考えた後で口を開く。
「いいじゃないですか、変わらない幸せだと思えば。それより、新しい候補は見つかりそうです?」
そう問うと、神父は上体を前に傾けて青年の目を真っ直ぐに見つめる。すると、青年は小さく頷き、淡々とした口調で話し始めた。
「うん、そっちは問題無さそう。仕事を教えるのに時間は掛かりそうだけど、俺と性格が似ているし平気でしょ」
そう返すと、青年は大きく息を吐き出した。
「同じ過ちは犯さない」
そう言って青年は立ち上がり、神父の姿をじっと見つめる。
「じゃあね、神父様。俺、そろそろ行かないと」
そう言葉を続けると、青年は聞き手の反応を待たずに部屋を去った。一方、残された者は深い溜め息を吐き、目を細めて天井を見上げる。
「過ち……そう、過ちですよね」
椅子に座る二人の女性は食事を終え、静かに食後の茶を楽しんでいた。椅子の左に座る女性は横を向き、笑顔でもう一人の女性に話し掛けている。しかし、セーラと呼ばれた女性は小さく頷くばかりで、声を発さず表情も無い。
それでも、金の髪を持つ女性は話を続け、茶を飲み干したところで水筒を片付け始める。その後、女性はセーラに話し掛けながら、軽くなった籠の蓋を閉めた。
「そろそろ戻りましょうか。暗くなると、寒いし危ないわ」
そう言うと女性は笑顔を浮かべ、セーラの顔を覗き込む。すると、話し掛けられた者はゆっくり頷き、その仕草を見た女性は立ち上がった。そして、セーラの手を掴んで立ち上がらせると、椅子に置かれた籠を持って歩き始める。
二人の女性は並んで道を進んで行き、彼女らの周囲に人影は無かった。そのせいか一人の女性の声だけが悲しく響き、それは二人が立ち止まるまで続いたのだった。
一方、その隣を歩く女性の髪は明るい栗色をしており、瞳は碧色をしていた。彼女の髪は肩ほどの長さだったが、良く手入れをされているのか陽光によって輝いている。
「ねえ、セーラ。やっと、一緒にお出かけ出来たわね」
そう話す女性の手には大きめのバスケットが握られ、それは彼女が歩く度に揺れている。そして、彼女は道端に木製の長椅子を見つけるなり籠をその中程に置き、共に歩む者の目を見つめた。
「ここで食事をしましょう? 他に、座れそうな場所があるかは分からないし」
すると、話し掛けられた者は籠の右側に座り、それを見た者は椅子の開いている場所へ腰を下ろす。
「色々、作ってきたのよ? 途中で崩れるのも嫌だし、手の込んだ料理は無いのだけれど」
女性は、そう言うと籠の蓋を開け、その中を覗き込む。籠の中には、薄茶色のパンを使ったサンドイッチやパンケーキが入っており、そのおかずとしてソーセージなども入れられていた。
「野菜は少なめになっちゃったけど……こういう時位は良いわよね」
女性は、そう言うと適当にサンドイッチを手に取り、隣に座る者へと渡す。すると、セーラはそれを受け取って口に運び、何度か咀嚼した後で嚥下した。
「他にもまだ有るから、遠慮しないで食べてね。飲み物も持ってきたから」
言って、女性は籠から水筒を取り出してみせる。そして、彼女はそれを軽く揺らすと、椅子の上に立てて置いた。
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教会の一室に二人の男性が居た。そのうち一人は二十代の青年で、もう一人は彼の倍ほどの年を取っている。また、彼らは向かい合う形でソファーに腰を下ろしており、間に有るテーブルには何も置かれていなかった。
「ねえ、神父様。あれはあれで幸せなのかなあ?」
青年は、そう問うと神父の目を見つめ、小さく首を傾げてみせる。対する神父はにこやかに微笑み、青年の疑問に答え始めた。
「幸せと言うのは、他人には分からないものも有るのですよ。貴方から見て幸せで無くとも、二人が笑顔でいるのなら幸せなのではないですか?」
そう問うと、神父は首を傾げて青年の反応を待った。対する青年は暫く考えた後で頭を掻き、腑に落ちない様子で話し始める。
「そうかなあ……だって、あの子達は前からあんな感じだったし」
青年は、そう言うと細く息を吐き出した。一方、彼の台詞を聞いた者は顎に手を当て、少しの間考えた後で口を開く。
「いいじゃないですか、変わらない幸せだと思えば。それより、新しい候補は見つかりそうです?」
そう問うと、神父は上体を前に傾けて青年の目を真っ直ぐに見つめる。すると、青年は小さく頷き、淡々とした口調で話し始めた。
「うん、そっちは問題無さそう。仕事を教えるのに時間は掛かりそうだけど、俺と性格が似ているし平気でしょ」
そう返すと、青年は大きく息を吐き出した。
「同じ過ちは犯さない」
そう言って青年は立ち上がり、神父の姿をじっと見つめる。
「じゃあね、神父様。俺、そろそろ行かないと」
そう言葉を続けると、青年は聞き手の反応を待たずに部屋を去った。一方、残された者は深い溜め息を吐き、目を細めて天井を見上げる。
「過ち……そう、過ちですよね」
椅子に座る二人の女性は食事を終え、静かに食後の茶を楽しんでいた。椅子の左に座る女性は横を向き、笑顔でもう一人の女性に話し掛けている。しかし、セーラと呼ばれた女性は小さく頷くばかりで、声を発さず表情も無い。
それでも、金の髪を持つ女性は話を続け、茶を飲み干したところで水筒を片付け始める。その後、女性はセーラに話し掛けながら、軽くなった籠の蓋を閉めた。
「そろそろ戻りましょうか。暗くなると、寒いし危ないわ」
そう言うと女性は笑顔を浮かべ、セーラの顔を覗き込む。すると、話し掛けられた者はゆっくり頷き、その仕草を見た女性は立ち上がった。そして、セーラの手を掴んで立ち上がらせると、椅子に置かれた籠を持って歩き始める。
二人の女性は並んで道を進んで行き、彼女らの周囲に人影は無かった。そのせいか一人の女性の声だけが悲しく響き、それは二人が立ち止まるまで続いたのだった。