悪と善と

文字数 895文字

 礼拝堂に着くと、二人を待つ神父の姿が在った。彼は二人を笑顔で迎え、女性の目を優しく見つめる。
「ありがとうございます、シスターアンナ」
 アンナは神父に向かって頭を下げ、隣に居る者からバスケットを受け取った。
 
「では、私はこれで」
 アンナは、そう言うと神父の前から姿を消し、黒い服を着た者は彼女を見送った。女性が去ってから数秒後、神父と黒い衣服を身に纏った者は、顔を見合わせる。

「御苦労さまでした。あの子は、病院でちゃんとした治療を受けていますよ」
 神父の話を聞いた者は、微かに表情を緩め頷いた。
 
「全身に痣や傷跡が見られ、栄養状態も良くありませんでした。ですが、

治療さえすれば快方に向かうとのことです」
 神父は、そこまで話したところで息を吸い込み、軽く首を傾けた。彼の話を聞いた者は難しそうな表情を浮かべ、何も言わぬまま目線を落とす。
 
「ただ……やはり、心の方は難しいですね。脅えた様子を見せ、延々謝罪の言葉を呟いていることが有るそうです」
 それを聞いた者は舌打ちし、目を細める。不機嫌そうな様子を見た神父は小さく息を吐き出し、口角を上げて口を開いた。
 
「それと、外套をその子に

だそうですね。取りに行きがてら、アンナとお見舞いに向かってはどうですか?」
 神父の提案を聞いた者は目を見開き、話し手の顔を見つめる。黒衣の者が興味を持ったと感じた神父は柔らかな笑顔を浮かべ、目を瞑った。
 
「考えとく」
「そうですか。では、行きたくなったら仰って下さいね。入院している部屋番号を教えますから」
 神父は、そう伝えると目を開いた。
 
「話、それだけ?」
 そう問い掛けると、黒い服を着た者は頭の後ろで腕を組んだ。
「ええ。伝えなければならないことは、それだけです」
 神父は、そう言ってから顎に手を当て、小さく頷いた。一方、神父の返答を聞いた者は、頭を下げてから踵を返す。
 
「じゃ、また、用があったら」
 黒衣の者は、そう言うと神父に背を向けたまま手を振った。そして、軽く周囲を見回すと、姉が消えた方へ向かって進み始める。

 神父は、その態度に苦笑してみせるが、何も言うことなく黒い背中を見送った。
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登場人物紹介

???
内容の都合上、名無し状態。

顔に火傷の痕があり、基本的に隠している&話し方に難有りでコミュニケーション力は残念め。
姉とは共依存状態。

シスターアンナ
主人公の姉。
ある事情から左足が悪い。
料理は上手いので飢えた子供を餌付け三昧。

トマス神父
年齢不詳の銀髪神父。
何を考えているのか分からない笑みを浮かべつつ教会のあれこれや孤児院のあれこれを仕切る。
優しそうでいて怒ると怖い系の人。

シュバルツ
主人公の緩い先輩。
本名は覚えていないので実質偽名。
見た目は華奢な青年だが、喧嘩するとそれなりに強い。
哀れな子羊を演じられる高遠系青年。

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