第44話「まったく、小学生は最高デス!」
文字数 2,349文字
結局、電車内で見かけた斉藤は似てるだけの別人だった。
そういえば、どこか斉藤とは顔立ちが違っていたような気がする。とはいえ、そんなに男の顔なんてじっくり見ないからなぁ。
黒金が見たという『双子と勘違いした斉藤』もたぶん、あいつだったのだろう。
都市伝説はあくまで都市伝説だ。面白そうな話に尾ひれがついて回るだけのこと。
「あれ? 土路じゃん?」
背後から声をかけられる。振り向くと斉藤がいた。
「おまえ本物だよな?」
「おいおい、第一声がそれかよ」
「いや、さっき、おまえの『どっぺるくん』に出会ってな」
俺の言葉を聞いて奴はため息を吐く。
「なるほどね。最近、その話はよく聞くよ。ボクも見たことあるけど、似てるだけだって」
「おまえ双子じゃないよな?」
いちおう高酉から聞いて知ってるけど、本人に直接聞くのが一番だ。
「違うよ」
「ま、いいけどな」
「今日はどうしたんだ? こんな所で会うなんてめずらしいけど」
今日は日曜日でしかも学校とは反対方向の路線だ。斉藤とは学校外で会うことなどほとんどないのだからな。
「案山 の引っ越しを手伝ってた」
「案山? あの案山か?」
斉藤が意外だと言いたげに、目を丸くする。
「あれ以外の誰がいるっていうんだよ」
「そういやおまえ、なんか水面下でいろいろ企んでいたよな」
こいつは俺のパージ計画に気付いていたのだろうか? まあ、話す必要はないわな。
「さあな」
「おまえ、交友関係が最近複雑になってきてないか?」
「複雑?」
「あの志士坂と仲良くなったり、かと思ったらいつの間にか黒金に懐かれてる。今度は案山だろ?」
「成り行きだよ」
「黒金には気をつけろよ。あの子、サークルクラッシャーだからな」
そんなもんとっくに気付いているっての。
「気をつけるも何も、俺の所属している文芸部は、男子は俺だけだからな。富石もおまえも名前だけ借りてるだけだし、クラッシュしようがないぞ」
「そういや俺、文芸部に所属してたんだったな。忘れてたよ」
「そんなわけだから、ご心配なく」
「俺も顔出した方がいいかな……いや、やめておくか」
こいつが部活に来るのを拒む理由はないが、本人が何かを気にしているのか? もしかしてあの小悪魔か?
「おまえも黒金になんかされた口か? そういや斉藤と二人きりでデートしたって言ってたな。黒金が」
「それはどうでもいいよ。なんとなく誘っただけだし、そもそも本当は黒金を誘うつもりじゃなかったんだから」
「へー、そういや、おまえ『恋という感情を知らない先輩』なんだよな?」
「なんだよそれ」
「黒金が言ってたんだよ」
「……」
斉藤は考え込むように沈黙する。
「おまえ、誰かを好きになったことないのか?」
斉藤と恋バナなんて、らしくない話題なのだが、話しの流れでそうなってしまう。
「そんなことはないよ。ボクの初恋は小学校の時だったからね」
「ほほう。どんな子だったんだ?」
俺が興味津々にそう尋ねると、斉藤の視線が真っ直ぐこちらを捉える。
「おまえも知ってる子だよ」
「誰だよ?」
「厚木球沙だ」
**
彼が語ったのは小学校時代のこと。
厚木さんは今と同じくらい活発な子で、人と関わるのが大好きだったらしい。
イタズラ好きで、家が近かった斉藤はよくそれに付き合わされたという。とにかく悪知恵がよく回ったらしく、プチデビルズとして、クラスメイトからは恐れられていたということだ。
まあ、斉藤は彼女の尻ぬぐいがほとんどだと言っていたが。
「ボクも初恋だったし、小学生だったし、相手にどう伝えればいいかわからなくて、でも、一緒にいられるならいいや的にずるずると彼女の悪行を手伝っていたんだよ」
「小学生時代の厚木さんっておてんばだったのか。それはそれで萌えるなぁ。最高じゃないか!」
小さい頃の彼女を想像し、妄想を膨らませる。いや、変な意味じゃなくて。
「それはキミが近くにいなかったからだよ。当時のボクは萌えるなんて、かわいい感情はなかった。毎日が振り回されていたからな」
「まあいいじゃん。好きだったんだろ?」
付き合っていないのだから、まあ許せはする。嫉妬はするけどな。
「よくわかんないよ。でも、たぶんそういうことなんだと思うよ」
「けど、それにしちゃ。教室での態度はないんじゃねーのか? 小学校からの馴染みなのに、よそよそしすぎるだろ? おまけに初恋の相手だろ?」
幼馴染みに近いというのに、二人が教室で会話をする様子は見たことがない。
「今の彼女には興味がないからな」
小学校時代とはいえ、初恋だった子に言うような台詞じゃない。いや、現時点でカノジョがいるなら、そういう感情にも至るのかな?
「おまえ、今、カノジョいるのか?」
「いないよ。ん? ボクに告白でもしようとしているのか?」
「ちげーよ! 聞き方が悪かったな。おまえに付き合っているカノジョがいるから、厚木さんへの興味が薄れたと思ったんだよ」
「なんだ、そういうことか。違うよ。理由は単純だ」
「単純?」
なぜか背筋を嫌な汗が流れる。
「今の厚木球沙はニセモノだからだよ」
◆次回予告
第四章もこれにて終了。次からは、いよいよ第五章。蒐集の小鬼編が始まります。今度は小悪魔ではなく小鬼です。
厚木球沙を狙うのはいじめっ子ばかりではありません。
彼女を執拗に追いかけるストーカーに主人公はどう立ち向かうのか?
相手が女の子でないなら、手加減無用!!
第45話「予兆なのです」をご期待ください。
そういえば、どこか斉藤とは顔立ちが違っていたような気がする。とはいえ、そんなに男の顔なんてじっくり見ないからなぁ。
黒金が見たという『双子と勘違いした斉藤』もたぶん、あいつだったのだろう。
都市伝説はあくまで都市伝説だ。面白そうな話に尾ひれがついて回るだけのこと。
「あれ? 土路じゃん?」
背後から声をかけられる。振り向くと斉藤がいた。
「おまえ本物だよな?」
「おいおい、第一声がそれかよ」
「いや、さっき、おまえの『どっぺるくん』に出会ってな」
俺の言葉を聞いて奴はため息を吐く。
「なるほどね。最近、その話はよく聞くよ。ボクも見たことあるけど、似てるだけだって」
「おまえ双子じゃないよな?」
いちおう高酉から聞いて知ってるけど、本人に直接聞くのが一番だ。
「違うよ」
「ま、いいけどな」
「今日はどうしたんだ? こんな所で会うなんてめずらしいけど」
今日は日曜日でしかも学校とは反対方向の路線だ。斉藤とは学校外で会うことなどほとんどないのだからな。
「
「案山? あの案山か?」
斉藤が意外だと言いたげに、目を丸くする。
「あれ以外の誰がいるっていうんだよ」
「そういやおまえ、なんか水面下でいろいろ企んでいたよな」
こいつは俺のパージ計画に気付いていたのだろうか? まあ、話す必要はないわな。
「さあな」
「おまえ、交友関係が最近複雑になってきてないか?」
「複雑?」
「あの志士坂と仲良くなったり、かと思ったらいつの間にか黒金に懐かれてる。今度は案山だろ?」
「成り行きだよ」
「黒金には気をつけろよ。あの子、サークルクラッシャーだからな」
そんなもんとっくに気付いているっての。
「気をつけるも何も、俺の所属している文芸部は、男子は俺だけだからな。富石もおまえも名前だけ借りてるだけだし、クラッシュしようがないぞ」
「そういや俺、文芸部に所属してたんだったな。忘れてたよ」
「そんなわけだから、ご心配なく」
「俺も顔出した方がいいかな……いや、やめておくか」
こいつが部活に来るのを拒む理由はないが、本人が何かを気にしているのか? もしかしてあの小悪魔か?
「おまえも黒金になんかされた口か? そういや斉藤と二人きりでデートしたって言ってたな。黒金が」
「それはどうでもいいよ。なんとなく誘っただけだし、そもそも本当は黒金を誘うつもりじゃなかったんだから」
「へー、そういや、おまえ『恋という感情を知らない先輩』なんだよな?」
「なんだよそれ」
「黒金が言ってたんだよ」
「……」
斉藤は考え込むように沈黙する。
「おまえ、誰かを好きになったことないのか?」
斉藤と恋バナなんて、らしくない話題なのだが、話しの流れでそうなってしまう。
「そんなことはないよ。ボクの初恋は小学校の時だったからね」
「ほほう。どんな子だったんだ?」
俺が興味津々にそう尋ねると、斉藤の視線が真っ直ぐこちらを捉える。
「おまえも知ってる子だよ」
「誰だよ?」
「厚木球沙だ」
**
彼が語ったのは小学校時代のこと。
厚木さんは今と同じくらい活発な子で、人と関わるのが大好きだったらしい。
イタズラ好きで、家が近かった斉藤はよくそれに付き合わされたという。とにかく悪知恵がよく回ったらしく、プチデビルズとして、クラスメイトからは恐れられていたということだ。
まあ、斉藤は彼女の尻ぬぐいがほとんどだと言っていたが。
「ボクも初恋だったし、小学生だったし、相手にどう伝えればいいかわからなくて、でも、一緒にいられるならいいや的にずるずると彼女の悪行を手伝っていたんだよ」
「小学生時代の厚木さんっておてんばだったのか。それはそれで萌えるなぁ。最高じゃないか!」
小さい頃の彼女を想像し、妄想を膨らませる。いや、変な意味じゃなくて。
「それはキミが近くにいなかったからだよ。当時のボクは萌えるなんて、かわいい感情はなかった。毎日が振り回されていたからな」
「まあいいじゃん。好きだったんだろ?」
付き合っていないのだから、まあ許せはする。嫉妬はするけどな。
「よくわかんないよ。でも、たぶんそういうことなんだと思うよ」
「けど、それにしちゃ。教室での態度はないんじゃねーのか? 小学校からの馴染みなのに、よそよそしすぎるだろ? おまけに初恋の相手だろ?」
幼馴染みに近いというのに、二人が教室で会話をする様子は見たことがない。
「今の彼女には興味がないからな」
小学校時代とはいえ、初恋だった子に言うような台詞じゃない。いや、現時点でカノジョがいるなら、そういう感情にも至るのかな?
「おまえ、今、カノジョいるのか?」
「いないよ。ん? ボクに告白でもしようとしているのか?」
「ちげーよ! 聞き方が悪かったな。おまえに付き合っているカノジョがいるから、厚木さんへの興味が薄れたと思ったんだよ」
「なんだ、そういうことか。違うよ。理由は単純だ」
「単純?」
なぜか背筋を嫌な汗が流れる。
「今の厚木球沙はニセモノだからだよ」
◆次回予告
第四章もこれにて終了。次からは、いよいよ第五章。蒐集の小鬼編が始まります。今度は小悪魔ではなく小鬼です。
厚木球沙を狙うのはいじめっ子ばかりではありません。
彼女を執拗に追いかけるストーカーに主人公はどう立ち向かうのか?
相手が女の子でないなら、手加減無用!!
第45話「予兆なのです」をご期待ください。