第47話 伝えたい

文字数 1,313文字

 佳は「一緒に住んでみたい気持ちなんだ」と言う。
 だから少しは好きなのかも知れないと思って、桜は静観しようと決めたが「何か手伝えることがあったら、言ってね」と言った。
 別に話を聞くだけでもいい。
「ありがと。進展するか、しないかは分からないし。今度、どういうつもりか聞いてみてもいいかな?」
「うん。それは絶対、聞いた方がいいよ」
「ただのルームメイト募集だったりして」と佳が笑う。
「そんなことないと思うけど…」
「なんかね。アイドルおかけるのもドキドキして、楽しいんだけど、ちょっと違う種類のドキドキがあって…楽しいから」
 桜は初めて見る友達のはにかんだ笑顔を見て、どきっとした。
(恋してる…顔)と桜は思った。
「私もそんな顔してたのかな?」と聞くと「え?」と言われた。
「ううん。話はいつでも聞くから頑張って」と応援した。


 一樹にメッセージを送ると、山崎の家に行くように言われる。どうやら山崎と飲んでいるようだった。桜は電車を乗り換えて、駅でケーキを買っていると、葉子ちゃんからメッセージが届いた。
「仕事帰りのお母さんが駅で待ってるから」
 慌ててケーキを持って、急いで睦月を探す。睦月が手を振ってくれた。
「ケーキ買ってくれたの?」
「はい。みなさんで女子会でもしようかと思って」
「嬉しい。男たちは飲んでくるって。すぐ帰ってくると思うけど」
 山崎家のマンションは徒歩五分の場所にある。一人でも行けるのだけど、念のため、ちょっと待ってくれていたようだった。
「来月からドイツに行くの?」
「はい。ビザの準備したりして…。ドイツ語はまだ挨拶程度しかできないですけど」
「寂しくなるなぁ」と睦月は言ってくれた。
「そんな…。帰ってきますし…」
「山崎は…桜木さんのこと、大好きだから。落ち込むと思うわ」
「…そうなんですね」

 夜の街を二人で歩いて帰る。
「あのね…。私、山崎とは父の言いなりで結婚したの。でも今さら好きになって。あの人は面倒事を押し付けられたって思ってるのかもしれないけど」
「え? 睦月さんお綺麗だから、そんなことないです」
「結婚したくなくて、酷いこと、たくさんしちゃったの」
「そう…ですか?」
「それでもいいって。それが私の父親のせいかなって捻くれた考えもあったし。でも今は…大切に思えてるんだけど、なかなか言えなくて」
 睦月がそんなふうに思ってるとは思わなかった。
「山﨑さんは幸せ者ですね。睦月さんにそんなふうに思ってもらえて」
「そう?」と睦月は夜空を見上げた。
 形のいい横顔を眺めながら、桜はその思いが届けばいいのに、と思った。
「あ、じゃあ、ラジオ局にお便り出したらどうですか?」
「えー?」
「大好きな人に『愛してる』って伝えてくださいって」
「そんな、恥ずかしいー」と言いながら笑う。
「自分で言うんじゃないから大丈夫ですよ。それにきっと驚かれますよ」
「そうね。やってみようかしら?」と悪戯っぽい笑顔を桜に見せた。

 夜道を女二人が小さく笑いながら歩いていく。すぐマンションが見えた。
「お茶入れて、ケーキ食べましょう」
「はい」
「それから、ラジオ局にリクエストしなきゃね」と睦月が意欲を見せる。
「はい。ぜひ」
 楽しい夜の女子会が始まる予感がした。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み