意外な援護射撃
文字数 598文字
頑張れよ。
それだけ言って、多賀はそれまで座りどおしだった椅子から腰を上げた。奏野も、自習室の引き戸に手をかけたところで振り返る。
お礼はバイト代出てからでいいからな……そういうことで風間、ちょっと。
え……ああ、遅れたのは悪かった。
おどおどと目をそらす風間に、奏野は苛立たし気に吐き捨てる。
そういうことじゃない。
じゃあ……何だ。
そこは風間だから仕方がないが、察しの悪さにも限度っていうものがある。
もっとも、奏野が何を言いたいのかは、このとき僕にも想像がつかなかったが。
戻ってきたら分かる。
謀は密なるを尊ぶってな。
口を挟んだ多賀を横目で眺めて、奏野は口元に笑みを浮かべた。
……そういう意味か。
やっと分かったか。
多賀が珍しく、ニヤッと笑った。それは奏野をからかったもののように見えたが、本当の意味に気付いたとき、僕はただ騒ぐしかなかった。
ちょっと、おい！
早すぎる！ まだ、心の準備ができてない。
だが、奏野は悪戯っぽく微笑んだままだった。
頑張れよ。
多賀とおんなじことを言って、奏野はきょろきょろしている風間を引きずっていく。僕はうろたえながら、その後ろ姿に向かって異議を唱えた。
まだ早い！
これはそもそも僕の問題なのに、本人の決定権はいつのまにかなくなっていた。
奏野の後を追うようにして自習室を出た多賀に至っては、ちらと僕に振り向くなり、親指まで立ててみせる。
今やらずして、いつやる。
