僕が抱えたバレバレの秘密

文字数 687文字

探してくる。
 ガラス窓の付いた引き戸に手をかける奏野の背中を見もしないで、多賀が原稿を打ちながら声をかける。
巡回来たら教えてくれよ、スマホで。
 横顔だけ見せた奏野が、ちらっとこっちを眺めてにやりと自信たっぷりに笑った。
絶対そっちにゃ行かせない、安心しろ。
 多賀も、口元に微かな笑みを浮かべてからかった。
情報処理部の部長責任になるしな、機材の持ち出し。
そんときゃお前らも共犯。
 お互いに顔は笑っているが、僕にとっては冗談事ではなかった。
何で! 部活の問題だろ!

 奏野が全責任を引き受けて当たり前なのに、多賀はともかく僕や井原までが巻き込まれるのはごめんだった。

 風間は……どうだっていい。

井原の成績、1ついたら一緒にできなくなるもんな、郵便局の年賀状バイト。
う……。

 相変わらず冷めた指摘で、言葉に詰まる。

 井原のレポートは、偽造がバレてもアウト。提出されなければ、もちろんアウトだ。

 でも、今の問題はそこじゃない。何とか言葉を絞り出して、ごまかす。

 

何でそこで出てくるんだよ、その名前が。
みんな知ってるよ、お前が佐紀のこと好きだって。

 身体がカッと熱くなった。

 知らなかった……何で? そんな分かりやすかった?

協力してやるよ。

 多賀まで……。

 逃げ道はもう、なかった。

ありがとう……。
 そこで多賀は、奏野とのやり取りを蒸し返した。僕をダシにした勝利宣言だった。
聞いたか奏野、こいつは立派な大人になるからな。
うるさい! ……うまく行ったら何かおごれよ、遠田。

 負け惜しみだけ言い残して、奏野は自習室を出ていった。

 少なくとも、イヤだとは言えなかった。とばっちりもいいところだ。

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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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