クラスの裏ボスが抱えた悩み

文字数 562文字

 そこで突然、絶え間なく連打されていた奏野のキーが音を止めた。そのホワイトノイズに、僕も多賀も思わず作業の手を止めて、異変の正体を確かめた。
ちょっと電話かけてくる。

 奏野が立ち上がって、自習室を出ていこうとする。風間への電話は時間の無駄だと思いはしたが、今のところ、他に方法はない。

 だが、多賀がそれを短い一言で止めた。

ここで済むだろ。
巡回来たらどうすんだよ。バレたら一晩没収だぞ、スマホ。
どっちみちまずいことやってるだろ。

 校舎内での携帯端末使用は禁止、違反者は媒体を翌朝まで没収されるというのがこの高校のルールだ。ただし、罰の重さはカンニングや提出物の偽造などの比ではないが。

 そこを計算に入れたのかどうか分からないが、奏野はその場でスマホを耳に当てた。

……つながんない。

 多賀はキーを叩きながら、即座に3つの推論を立てた。

「1、もう学校に来てて、電源切ってる」 

「2、バッテリー切れ」

「3、家にスマホ忘れてきた」

「3」の危険性が高いな。
 つい割り込んでしまった僕のリアクションに、奏野はスマホ片手に容赦のない批評を加える。
意外と人ディスんのな、遠田も。

 確かに、僕のキャラじゃない。内心まで見透かされているような気がして、それ以上は何も言えなかった。

 代わりに、多賀がその場を取り繕ってくれた。

「1」ならいいんだけど。
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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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