悪女についての男子トーク

文字数 608文字

確かに、お茶一本買いに行けない。

 逸れた話題を多賀はうまくまとめたが、そうなったらそうなったで、僕は自分の問題を向き合わないわけにはいかなくなった。

 井原を救えなかった奏野を、僕は責められない。

 本人がいなくなったのをいいことに、多賀に聞いてみた。

奏野もずいぶん、新島と戦ったんだろ?
歯が立たなかったみたいだけどな。

 やっぱり知っていた。今度はそれをいいことに、多賀には関係ないことを言い訳する。

 ……自分に対する言い訳だった。


僕だって、新島と話そうと思ったんだよ。
全く相手にされなかったろ? 壁が厚いからな、男子と女子の間は。
 そこまで見ていたとは思わなかった。いや、聞いていたというべきか。それなら、多賀は無関係じゃない。つい、食ってかかってしまった。
知ってたんなら……。
ひとりでやれよ。好きなんだろ、井原が。

 まったくの正論だった。返す言葉もない。そこが僕の心のわだかまりだったからだ。

 そこへ、ありがたいといっては何だが、近づいてくる新島の姿が引き戸の窓の向こうに見えた。

……。
 向こうからも見えるはずだから、僕は慌ててキーボードの上に顔を伏せた。
……こっち来る!
 一方で、多賀は平然としたものだ。さっきと変わることなく原稿を打ち続けている。
廊下の途中で迎え撃ってくれるさ。

 気になって、ちらっと振り向いてみる。

 そろそろ暗くなってきた廊下で、奏野の後ろ姿が、新島の影に重なった。

 何か話しているらしい……。

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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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