私が……先生に相談したの。ノートを隠されました、って
井原としては大きな決断だったろう。それが最初からできるようなら、僕たちもこんな危ない橋を渡ったりはしない。ノートが見つからないうちに相談なんかしたら、かえって言い逃れの上手い新島の罠に自分からはまるようなものだ。
風間が口にしたさっきの一言が、どうも引っかかる。嫌な予感がした。
こいつの言葉が足りないのはいつものことだが、今日は特にイライラ来る。
それが伝わったのか、奏野が間に入るかのように、風間の話をまとめた。
つまり……新島が自習室から体育倉庫の上に、クリアケースを落とした、と。
外ヅラのいい新島のことだ。男の先生の1人や2人、媚を売って操るくらい、わけもないだろう。不運だったのは、頼んだ相手がトイレのバリケードに気付いてしまったことだ。
奏野に追い払われて予防線を張ったんだろう。自分の持ち物だってことにするために。
多賀が言葉を補うと、井原はまた、きょとんとしてつぶやいた。
今日のことを井原がどこまで知ってるかは分からない。知らなくてもいいことだ。僕も、恩着せがましく教えるつもりはない。
それは、奏野も同じことだったろう。
あ、その……で、そこで先生に出してもらったわけか。
英雄扱いを避けるかのように無理やり話をそらすと、風間はその問いに訥々と答える。
事情はよくわかんなかったけど、それが井原さんのだって知ってたから、自分で拾いに。
風間の図体だったら確かに、体育倉庫の上にも軽く登れるだろう。僕は再び、荒々しい声が響く窓の下を眺めた。