直面する危機…絶体絶命
文字数 647文字
奏野の勢いに負けて、僕は自分でも信じられないくらいの速さと集中力で原稿に取り掛かった。だが、それは5分と続かなかった。
目の前に、如何ともしがたい壁が立ちはだかったのだ。
静かな分、よけいに逆らい難いものを感じる。でも眼の前の障害は、いかに精神的な操作で苦痛を和らげようと、物理的にはどうすることもできないものだった。
何で! パソコンで作っていいってことになってたろ!
それはその通りだ。だから僕たちはその恩恵をたっぷりと受けて、この通り、今日締切の提出物を持参できない仲間のために、レポートの偽造に勤しんでいる。体裁さえ整えば、立派に言い訳は立つのだった。
確かに、グラフとか画像データとかあるからそういうことになってるけど……。
さすがに多賀は察しが良かった。眼鏡の奥の眼をギラつかせる奏野のプレッシャーに耐えかねた僕の、しどろもどろの説明は、さぞかしまどろっこしく聞こえただろう。
だから、この一言は僕への皮肉でもあったし、余計な威圧を加えた悟りの鈍い奏野への非難でもあった。
そのどっちにせよ、僕にはもう、返すべき次の言葉がなかった。
事情はどうあれ、僕たちの不正行為には厳罰が待っている。「本人は知らなかった」と模倣犯に言わせないためだ。
化学の実験グループ全員、冬休み一杯自宅謹慎、成績は1。
一気にまくし立てた多賀の後に、僕は自虐的な溜息ひとつで付け加えた。
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